ひねくれ令嬢の婚活事情
「……別に。私は外見だけで結婚をしようと思ったわけではなかったので少し不思議に思っていただけです……」
オレリアは不貞腐れたように唇をつんと尖らせている。それとは対照的にマティアスの口角はにんまりと上がっていく。
是非とも今、すぐにでも「結婚の決め手」を問いただしたいが、急いては事を仕損じるだけだ。そう簡単に口を割らないのは目に見えている。これからの楽しみがまた一つ増えたことに喜びを禁じ得ない。
「何ですか、その顔は」
いつの間にか、やに下がっていたらしい。
オレリアの目が鋭くなる。しかし、頬がほんのり赤く染まっているため、迫力に欠けている。
「意外に愛されてるなぁって思って」
「……ッ!先に行っていますから」
ふんっ、と鼻を鳴らし石畳に靴音を響かせながら、オレリアはずんずん先に歩いて行ってしまった。
悪役令嬢だなんて噂される彼女が、こんなに愛くるしい生き物だと知っているのは自分だけだ。
マティアスは決して逃さぬよう、小さく愛しい背中を追いかけた。