ひねくれ令嬢の婚活事情
「オレリアさん」
名前を呼ばれて振り返ると、叔母がこちらへ歩み寄ってきた。その半歩後ろには、絵画から出てきたような美しい青年が立っていた。
丁寧に撫で付けられた鳶色の髪に、垂れ気味の瑠璃色の瞳、すっと通った鼻梁。細緻を極めた芸術品のように全てが整っている。見上げるほどの背丈だが、線が細いせいかそれほど威圧感はない。優男、という言葉がぴったりと当てはまる風貌だった。
彼はオレリアを見ると人好きのする笑みを向けた。その笑顔が胡散くさいと感じたのは気のせいだろうか。
叔母はオレリアと当たり障りのない会話をした後、本題を切り出した。
「オレリアさん、こちらはヴェルネ伯爵家のご三男でいらっしゃるマティアス様です」
「お会いできて光栄です、オレリア嬢」
叔母に紹介されたマティアスは、オレリアの手を取りその甲に唇を落とした。その瞬間、隅で小さな悲鳴が上がる。それは彼が、ただ顔が良いだけでなく、王太子であるクロードの乳兄弟で、且つ若くして宰相補佐を務める切れ者として有名で、結婚相手としてなかなかの好物件だからだ。
だが、オレリアは彼の声に聞き覚えがあった。先程中庭でオレリアの話をしていた男たちの一人だ。道理で笑顔が嘘くさいわけだ。
(賭けを実行しにきたってわけね)
オレリアがもう少し感情豊かであったら、思い切り顔をしかめていたことだろう。
そんなオレリアの内心など知る由もないマティアスは、当然のように「一曲踊っていただけますか?」と手を差し伸べてくる。その手を跳ね除けたい気持ちでいっぱいだったが、叔母の手前渋々とその手を取った。