ストーカー気質な彼女は,甘い溺愛に囚われる。
「そうだよ,びっくりさせてごめんね。あと,昨日の事も気にしないで? 怪我,平気? 陽深ちゃんと初めてあった時の事も,ちゃんと憶えてるよ」



真輝を遮るように,俺は声をかけた。

悔しいような,羨ましいような。

嫌な感情が頭をしめて,思考の混じらない言葉だけが飛んでいく。

急な俺からの言葉に,陽深ちゃんは表情を変え,緊張した面持ちになってしまった。

俺の中心が,ツキリと痛む。

……?

その,初めての感情に戸惑う間。



「名前……また……あの時の,静流くんも憶えて……?」



聞き取りづらい陽深ちゃんの呟きに,俺は顔をあげた。

その安定にうつ向いた陽深ちゃんの表情を,たまたま,俺だけが見てしまう。

ほわんと,嬉しさを留められない,恥じらった表情。

俺の頬が,熱を持つ。



「静流? なに固まってんの? ってか,そろそろヤバくね? 移動間に合わねぇよ」

「あっ,私……ごめんなさい! それから,ありがとうございました……!!」



チラリと見られた陽深ちゃんが,深く頭を下げて,パタパタと離れていく音。

その背中に,さっきはごめんなーっと律儀に繰り返した真輝。

見ていたのは,本当に陽深ちゃんだけだったのかな。

陽深ちゃんの小さくて特別な笑顔が,頭から離れなかった。



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