あなたの世界にいた私
そんなことを考えながら、
ふと、コートに視線を移した。
「…このコート返さないと」
「誰かに借りたんですか?」
看護師は私の独り言に、
質問を投げかけた。
「……誰なんだろうね…」
「え…?」
さらに疑問が増えたような顔をする。
でも、それ以上は何も聞いてこなかった。
「…返しに行ってもいい?
…って言っても無理か…」
そう言って、
看護師に背を向けようとした時、
看護師は言った。
「工藤先生に確認してきますね」
そして、看護師は病室を出て行った。
私には、普通が分からない。
誰かもわからない彼に、
会いたいと思うのは、おかしいでしょうか。
誰かもわからない彼に、
私という人を知ってほしいと思うのは、
おかしいでしょうか。
誰かもわからない彼に、
そばにいてほしいと思うのは、
おかしいでしょうか。
私にはどうしても分からない。
何が普通で、
普通じゃないのか。
少なくとも、
私は病気だから、普通ではない。
心の中で、
返答のない質問を投げつけた。