あなたの世界にいた私
病室に戻ると、雪斗くんはもういなかった。
そして、机の上に一枚の紙が置かれていた。
“これから、音楽番組に出たり、
色々忙しくなりそうだから、
会える日が少なくなると思う。
ごめんね。
雪乃が元気なることを誰よりも願ってる。
頑張ってね”
もう、当分会えなくなるなら、
さっき会ってればよかったな、
なんて、少し…
本当に少しだけど、後悔した。
テレビをつけると、
ちょうど雪斗くんがいる男子グループが、
ニュースで取り上げられていた。
「……人気なんだね…」
私が呟いた言葉の返事は、
もちろん帰ってこなかった。
テレビやネットで、
雪斗くんの人気を見ていると、
遠くに離れていってしまいそうな気がした。
もっと人気になれば、きっと、
私なんかに会いに来なくなるんだろうなって。
「……いつかは…
…忘れちゃうのかな」
自分で言って、少し悲しくなった。
だから、テレビを消して、布団を被り込んだ。
自分の温もりを感じながら、
雪斗くんの温もりを感じたくなった。
いつもみたいに、
私の手をそっと握って欲しかった。
今まではなんとも思っていなかったことが、
会えなくなることで、欲してしまう。
「…私…
…どうしちゃったんだろう」
自分でもわからない感情を
胸の奥に閉じ込め、ぎゅっと目を瞑った。