あなたの世界にいた私





「雪乃ちゃん、調子どう?」





お昼に先生が顔を出した。









「今までと変わらない」









「ご飯は?食べられる?」













「……いらない」





私がそう答えると、
先生は私の返答が分かっていたかのように、
点滴を打ち始めた。










「雪斗くん、大活躍みたいだね」





「うん」








テレビをつければ、
どこも雪斗くんのグループで、
話題が持ちきりだった。








音楽番組で見る雪斗くんは、
いつもの雪斗くんじゃないみたいに、
かっこよかった。






いつも、かっこいいんだけどね。















「…先生…」







「どうした?」







もう来ないかもしれない。











もし、次来てもそれが最後かもしれない。












それでもいい。






「……雪斗くんが来ても、



















ここには入れないで」






「え、どうして?」











私のわがままを言えば、
今すぐにでも会いたい。









会って、たくさん話したかった。











でも、それは私のわがままだから。









「分かるでしょ?

















……残された側は…
















…辛い」

















思っている何倍も、辛い。








私はずっと、お父さんやお母さんより、
早く死んでしまうと思っていた。






だから、考えもしなかった。










「…後悔しない?」











先生からの問いの答えは一瞬で出た。







「するよ。















…するに決まってる。













でも、私のために雪斗くんが苦しむのは…














…違うから」












「その考え方は、間違ってると思うよ。









彼のためにやってると思っていたことが、








逆に彼を苦しめるかもしれないことを







忘れてはいけない」








「でも」









「よく考えな。












雪乃ちゃん自身の気持ちと、
















彼の気持ちを」






そう言って、
先生は病室を後にした。





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