あなたの世界にいた私
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「雪乃ちゃん、眠った?」
そう言いながら入ってきたのは、
雪乃の主治医の工藤優真先生だった。
「はい、ついさっき」
そう言って、僕は雪乃の手をそっと離した。
「…僕はこれで失礼します」
「君はさ、後悔しない?」
病室を出ようとした僕を引き留めた言葉。
「…どうゆうことですか?」
分かっていないように返す言葉。
でも、本当は先生が何を言いたいのか、
よく分かっていたと思う。
でも、それを認めたくなかった。
まるで、
雪乃との永遠の別れを
受け入れるようだったから。
「個人情報だからあまり言えないけど、
医者としてじゃ無くて、
一人の男として言っておく。
時間は永遠じゃない。
いつか終わりが来る」
そう言う先生は、どこか苦しそうだった。
僕の見間違えかと思ったが、
最後に発した言葉で、
見間違えではないことがわかった。
「……君は俺みたいになるな」
その瞳から、
なにかを強く訴えかけているように思えた。
「もしかして…」
「頑張りなよ」
でも、僕の言葉を遮った先生の表情から、
さっきの苦しさは感じ取れなかった。
そして、先生は微笑み病室を後にした。
「……後悔…」
僕はもう一度そっと、
でも、
力強く雪乃の手を握った。
「…もう、一人で苦しまないで。
……雪乃は、十分頑張ってる。
…僕は知ってるからね」
雪乃の目頭に溜まっている涙を
拭き取るようにそっと触れた。
「…また来るね」
ずっと握っていたい手をそっと離し、
病室を出た。