あなたの世界にいた私
「…せん…せい……」
私が呼ぶと、
先生は微笑んで、「何?」と、
いつものように聞いた。
「…紙と、ペン…そこに、
入ってるから…とって欲しい…」
私がそう言うと、先生は引き出しから、
ぐちゃぐちゃに丸められた一枚の紙と、
ペンを取ってくれた。
手にうまく力が入らなくて、
うまく書けないかもしれないけど、
雪斗くんに、
今伝えたいことをたくさん書こうと決めた。
丸めてあった紙を広げると、
丁寧な字で、
“拝啓 西宮雪斗様“
と書かれていた。
でも、その文字は、少し滲んでいた。
自分の涙で。
雪斗くんに会って、一度だけ、
手紙を書いておこうと思った日があった。
いつ死んでも良いように。
でも、書けなかった。
書こうとすると、
自分はもう死ぬんだと、
自分で決めてしまっているようで、
悔しかったから。
それが、
辛くて、
苦しくて、
泣いてしまった。
だから、その時は、
何も書けなかった。
でも、
今は、伝えたいことがたくさんある。
伝えなければいけないことだって、
たくさんある。
だから、最後に直接言えないのは、
悔しいけど、手紙でも良いから、
伝えたいと思った。
手が震える中、
ゆっくりと文字を綴っていく。
その間、先生たちは見守ってくれていた。
私が書き終えるまで、
ずっと、何も言わずに。
私が泣いても、
ただ
ずっと黙って待ってくれた。
「…ありがとう…」
手紙を書き終えて、そう言うと、
みんな、微笑んで病室を出ていく。
そして、
先生が出て行こうとして、私は引き止めた。