あなたの世界にいた私
「…の…………きの……雪乃」
誰だろう…。
さっきから、ずっと私の名前を呼ばれている。
真っ暗の中、ひたすら歩く。
声のする方に。
でも、
どれだけ歩いても暗闇が続くだけだった。
「雪乃!」
その時、
私の名前を呼ばれたのと同時に、
腕を掴まれた。
暗くて顔が見えなかったけど、
誰かはすぐに分かった。
「…お父さん…?」
「雪乃はまだここに来るべきではない。
お母さんのところに戻りなさい」
「でも、どうやって戻ったらいいの?
どこも暗闇で、分からないよ」
「おいで」
そう言って、お父さんは、
今まで歩いてきた方向とは逆向きに、
私の手を握って歩き出した。
「……大きくなったな」
暗闇の中、お父さんの声が響き渡る。
「お父さん…
…ずっと、会いたかった」
顔が見えなくても、すぐそばにいる。
繋がれた手から、お父さんの熱を感じる。
だから、
本当に亡くなったなんて、
信じられなかった。
でも、現実はそんなに甘くない。
なくなったものは、二度と返ってこない。
それと同じだ。
もう、お父さんは戻ってこない。
「……お父さん…」
「どうした、雪乃」
だから、言わなきゃいけない。
今まで伝えたかったこと。
伝えなければいけなかったこと。