あなたの世界にいた私









「育ててくれて、ありがとう。























……病気になってごめんなさい」











「謝ることじゃない。

















雪乃は何も悪くない」













そう言って、
ギュッと力を込めて握ってくれた。
















「…雪乃、ごめんな。















…お母さんとお前を置いて先に行って」













涙を堪えるのに必死で、
首を横に振ることしかできなかった。
















真っ暗で何も見えないのに、
声を出すことができなかった。
















「さぁ、行っておいで」











俯いていた顔を上げると、
明るい光が差し込んでいた。













そして、お父さんは私の手を離して、
背中をそっと押した。














振り返ると、
今まで真っ暗で見えなかったお父さんの顔が、
はっきりと見えた。















「いってらっしゃい」












本当は行きたくない。














お父さんと離れたくない。









でも、笑顔で見送ってくれたお父さんに、
私も笑顔で頷き、背を向けて歩き出した。












作り笑顔なんかじゃなかった。











お父さんにつられて笑顔になっていた。














いつぶりだろうな。




笑ったの。  









 



そう思ういながら、
私は一度も振り向かず、
光が差し込む方に足を進めた。







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