あなたの世界にいた私
その後宿舎に戻ると、
メンバーが心配そうに僕を見ていたけど、
今は何も話す気になれず、
自分の部屋に戻ってしまった。
それから少しして、
遠慮がちに扉越しから聞こえた声。
いつも僕を呼ぶ声と何も変わらない。
メンバーの声。
でも、今は、
いつもより暖かく、
僕は一人じゃないって言ってくれているみたいに
優しく聞こえた。
「入ってもいい?」
「…うん」
そう言って入ってきたのは、リーダーの律だった。
「何があった?」
「……ごめん。
………迷惑かけて…ごめん」
そう言って、
ただ謝り続ける僕の背中を
そっとさすってくれた。
きっと、メンバー全員が、
今炎上している動画を見ていると思う。
なのに、僕を責めないで、
心配してくれて、
話を聞こうとしてくれる。
そんな優しいメンバーたちに申し訳なくて、
僕は、謝ることしかできなかった。
「何か理由があったんだろ?
雪斗が、理由もなく
暴力を振るう人間じゃないことぐらい、
わかってるから」
だから、大丈夫。
そう言って、励ましてくれる。
そんな律に、
僕が今抱えている苦しみを聞いて欲しくて。
でも、自分の口から話してしまったら、
もう二度と、雪乃に会えないことも、
雪乃がいなくなったことも、
全て認めてしまうみたいで、
変えられない
事実ってこともわかっているけど、
それでも、
もう少しだけでいいから、
認めなくなくて、
だから、
今の僕はどうすればいいのかわからなかった。
「雪斗が話したい時に話してくれればいいから。
俺は待ってる。
信じて待ってるから」
「……ありがとう、律」
「おう」
そう言って、
無邪気な笑顔を向け、部屋を出ていった。