あなたの世界にいた私
「…ゴホッ、ゴホッ…ゴホッ、ゴホッ」
早く病院に戻らないと。
咳が出始めて、
頭では分かっているのに、間に合わなかった。
症状三つ目は、吐血。
だんだんと苦しくなって、
息ができなくなる。
でも、
雪斗くんの前で症状が出なくてよかった、
なんて思った。
もし、雪斗くんの前で症状が出たら、
なんて言い訳しようか。
病気なんてとてもじゃないけど、
言える気がしない。
病気だと知ってしまえば、
きっと気を使うから。
私は、
健康な人と同じように接してくれる
雪斗くんの隣にいたかった。
病気だからと言って、
特別扱いされるのは、もう嫌だったから。
「大丈夫ですか⁉」
突然声をかけられたけど、
もちろん答えることなんてできなかった。
ただ、
必死に首を横に振ることしかできなかった。
特別扱いをされるのが嫌だと言いながら、
こうやって周りに迷惑をかけてしまう。
そんな私は、
“わがまま”なのだろうか。
「救急車、呼びますね」
病院に運ばれれば、
私がまた勝手に外出したことがバレてしまう。
そしたら、
もう雪斗くんに会いに行けなくなってしまう。
でも、
私はまだ生きたかったから、
助けてほしかった。
「もうすぐ、救急車来ますから!
もう少しだけ、頑張って下さい!」
誰かも知らない人に、
こうやって必死に声をかける。
とても、素敵な人なんだろうな。
そんなことを思いながら、
私の意識は遠のいていく。
きっと、また目を覚ます。
そして、
また優真先生が怒ってくれて、
またあの病室で、
見慣れた景色を見て一日を過ごす。
当たり前だけど、
“死”を待つだけの人にとっては、
決して当たり前なんかじゃなかった。
だから、願いたかった。
また、
目を覚ませますように、と。
何度も何度も、
誰かにお願いするとか、
分からないけど、
この瞬間だけは、願い続けた。
「……いき………た…い…」
最後の力を振り絞って言葉にしたのは、
“生きたい”だった。