あなたの世界にいた私
次に目覚めると、
辺りは夕日に染まっていた。
意識がはっきりしない中、
ただ静かに日が沈んでいく。
「気分悪いとかない?」
そう言って入ってきたのは、先生だった。
「…大丈夫」
私がそう言うと、
先生は何も言わずに、聴診を始めた。
そして、ベットの側にあった椅子に座った。
少しの間、先生は何も話さなかった。
もちろん私も。
そして、
日が沈みきった時、先生は話し始めた。
きっと、また怒られるんだろうな。
「…雪乃ちゃん、よく頑張ったね」
「え?」
先生から出た言葉は、
私が思っていたものとは、
あまりにもかけ離れていた。
「約一か月かな?
雪乃ちゃんは、意識が戻らなかった」
「…一か月」
さすがに今まで、
一か月も意識が戻らなかったことはない。
だから、
先生が放った言葉は、少し重たかった。
「雪乃ちゃんの症状は、最初に比べて」
「分かってる。
…分かってるからやめて」
もう長くはない。
多分、先生はそう言おうとしていた。
“死を告げる”ことを
させたくないとばかり思っていたけど、
そうじゃなかった。
私が逃げていただけだった。
怖かったから。
もう時間がないと言われるのが、
今は一番聞きたくない言葉だったから。
「ちゃんと聞いて。
………雪乃ちゃんの命に関わることだから」
いつもなら引き下がるのに、
今日は引き下がる様子は一切なかった。
「………死ぬんでしょ?」
言われるなら、
全部自分で言ってしまえばいい。
そう思いだしたら、
勝手に口が動いてしまう。
「私は、もう長くない。
…症状も出る頻度が増えて、
今回も目覚めなかった可能性の方が
大きかった。
…分かってるよ。
全部分かってるから」
先生の前では泣きたくなかった。
悔しかった。
まだ、生きたかったから。
もっと、
雪斗くんのことを知りたかったから。