あなたの世界にいた私
「雪乃ちゃんが言ったことは、
間違いではない。
でも、いつ命が尽きるかは、
医者の俺にも分からない。
長くないかもしれないし、
これからも何十年と
生きることができるかもしれない。
だから、希望は捨てないでほしい。
俺も医者として、最善を尽くす」
前にも言われた、先生の言葉。
でも、私の受け取り方は前とは違う。
生きたいと思いたくなくても、
今の私にはもうできない。
もう、
雪斗くんに出会う前の自分には戻れなかった。
「………まだ、生きたい。
…もっと、生きていたい」
泣きながら、
こんなにも何かに縋ろうとしたのは、
初めてだ。
あれだけ望んでいた退院。
なのにいつの間にか、
何も考えなくなっていた。
ただ、“死”を待つだけ。
どんなに願っても、
私は近い将来死んでしまう。
どんなに生きたくても、それができない。
“どうして私なのか”
この言葉をどれだけ思ったことか。
その気持ちが今になって蘇ってくる。
何も望まない。
いい暮らしをしたいわけでもない。
生きて、
普通の高校生として学校に行って、
友達と遊んで。
ただ、普通に生きたかった。
「当分は、絶対に外出しないで。
でも、もし行きたいなら俺に言って。
考えるから」
先生はそれだけ言って、病室を出た。
私が泣き崩れても、
先生は自分を取り乱さなかった。
医者として、慣れているのか、
患者さんの前では、
平静を装っているだけなのかは分からない。
でも、どちらにしても、
私には理解できないぐらいの努力と
経験をしてきたと思うから、
そんな言葉では、
片づけてはいけないことぐらい、
頭では分かっていた。
でも、
“どうして医者なのに、治せないの”とか、
“こんなにも苦しんでいる患者さんを前に、
何も思わないのか”など、
思いたくなくても、
今はどうしても思ってしまう。
先生が私を助けようとしてくれているのも、
私が一番分かっている。
でも、
私はそう思うことで心を満たしてきたから。
生きる希望をなくしたその日から、
ずっとそうするしかなかったから。
この日、私は、夜ご飯も口にせず、
泣き止むころに眠りについた。