あなたの世界にいた私

思い


「雪乃ちゃん、おはよう。
 昨日、夜ご飯食べてないみたいだけど、気分悪かったりする?」
「…大丈夫」

私がそう言うと、先生は眉毛を下げて困った顔をする。
先生が困る理由は聞かなくても分かる。

夜ご飯を食べなかったことに続き、目の前に置かれている朝食にも
一切手を付けていないからだ。

「なら、朝ごはん食べれる?」
「………いらない」

おそらく、これも病気の症状の一つだ。
私の病気の症状の四つ目は、食欲がなくなること。

何日食べていなくても、お腹が空かない。
無理にでも食べようとすれば、すぐに吐いてしまう。

「食べられないなら、点滴打つけどいい?」
「…うん」

私がそう答えると、いつものように手際よく点滴を打つ。
そして、目の前に置いてあった朝ごはんは下げられた。

「…先生」
「ん?どうした?」
「………彼に会わせて」
「公園であった子?」

私が頷くと、先生は目を伏せた。
きっと、私の体的に今外に行くのは、非常に危険なのだろう。

分かってる。
私が一番分かっている。

今までとは違って、少し体がだるかったから。
でも、それでも今は、雪斗くんに会いたかった。

「…お願い、先生。………雪斗くんに会わせて」

普段ならすぐに諦める私が珍しかったのか、先生は少し驚いていた。

「…5分、長くて10分。
 今の雪乃ちゃんの体の状態から、医者として、
 これだけしか外出を許可することはできない。
 それでもいい?」

私は先生の目を見て、頷いた。

少しでもいい。
雪斗くんに会いたかったから。

「じゃあ、また迎えに来るから」

そう言って、先生は病室を出た。
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