あなたの世界にいた私
「…ごめん。
雪乃ちゃんの病気は、
今までの症例がないから、
俺たちも今、苦戦している。
でも、諦めない。
俺たちは、
雪乃ちゃんを治したいと思っている。
だから、雪乃ちゃんも頑張ってほしい。
……頼む」
優真先生が頭を下げると、
後ろにいた数人の看護師たちも頭を下げた。
「……もう……やめて…」
そう言って、私は自分の病室に戻った。
“生きたい”なんて、もう思っていない。
いつからか、
早くこの命が尽きればいいのに、
なんて思うようになっていた。
この病院に縛られるのも、
治りもしないのに、
辛い治療を受けるのも、
もう全部、
…辞めてしまいたかった。
全部投げ出して、
病院から抜け出して、
もう…
…死んでしまいたかった。
でも、
いつもこうやって病院に戻ってきてしまう。
それは、お母さんが悲しむから。
私が死んでしまえば、
お母さんは一人になってしまうから。
それだけは、私にはできなかった。
お母さんを悲しませることだけは、
したくなかった。
それでも、
もう…
…辛い。
「………死にたい…」
私は一人、病室で涙を流した。
小さい時に入院が決まって、
一人が嫌で泣いた日。
早く退院したくて泣いた日。
お父さんが、
事故で亡くなったと聞かされて泣いた日。
どれも、遠い記憶。
それ以降、泣くことなんてなかった。
でも、この日はなぜか、
泣き止むことが出来なかった。
名前も知らない、
誰かもわからない人のコートを抱きしめて、
離すことが出来なかった。