あなたの世界にいた私



「雪乃!」



「廊下は走らないって言われるよ?」 








無邪気な笑顔で、小走りで私の方に来る君は、いつも楽しそうだ。





「だって僕、今日デビューしたでしょ?
早く伝えたかったから」



「うん、理由になってないと思うよ?」





そう言いながら、
私は周りをキョロキョロして、
落ち着かなかった。





「雪乃、どうかした?」




そう言って、私の顔を覗き込んでくる君の顔は本当に綺麗だった。





「逆に聞くけど、大丈夫なの?」





「何が?」





キョトンとした顔で、首を傾げる雪斗くんは、
本当にわかっていないのだろうか。





「ここにいてるのバレたらやばそうだけど?」






「あー、確かにそうだね」





やっと気づいたのか、
バツが悪そうな顔をして、
ポリポリと頭をかいた。





「私、お手洗いに行くから、
先に病室に行っててくれる?」




「うん、分かった」



そう言って、
雪斗くんは私が来た方向に歩き出した。




そして、私は逆方向に歩き出した。




ふと、振り返ると、
雪斗くんも偶然振り返ったのか、
それともずっとこっちを向いていたのか、
笑顔で手を振っていた。















でも、私は見逃さなかったよ。









私と目が合うほんの一瞬に見せた、
悲しげな表情を。



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