あなたの世界にいた私








「待って奏斗、これなんの冗談?」






そう言う雪斗くんは焦っていた。






でも、奏斗くんは、
冗談で言ったとは思えないぐらい、
怒りに満ちた視線を送っていた。





「…冗談?












これが冗談に見えるか?」








そう言って、
一歩一歩雪斗くんに近づいてくる。











それと同時に、
雪斗くんは一歩一歩下がっていく。










怖い。








もし、本当に雪斗くんが刺されて、
死んでしまったらって思うと、
すごく怖かった。









なのに、私の足はすくんで、
前に出すことができなかった。












一歩一歩下がって来た雪斗くんが、
私がいるところまで来ると、
下がるのをやめた。











それでも、近づいてくる奏斗くん。









「雪乃、帰って」





「え…?」







「早く帰れ‼︎」






突然大きな声で言われて、
驚きつつ雪斗くんの顔を見ると、
怒ってる表情だった。





でも、
その後すぐに、穏やかな顔をして言ったんだ。








「…またね」






雪斗くんが言った”またね”は、
すごく悲しげで、
それでいて、優しくて。











だから、私は、
首を横に振ることしかできなかった。


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