恋愛ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、推しカプの仲人に忙しいので、そちらはどうぞ勝手にお幸せに
「……なぜ、それを?」
アベルが訝しげどころか胡散臭いものを見るような、胡乱な目を向けてくるのも仕方ないですわね。
「マリネは薬師(やくし)なのです」
「薬師……医師の古い呼び方ですか…ですがそれにしては」
「ええ、肌に触れただけでは普通なら病を見抜けないでしょうね」
まあ、21世紀の医療ならある程度皮膚や様々な部位の状態で推察できるでしょうけれど。ここは医療レベルの低い中世世界。けれど、ファンタジーですからね。
「マリネは、代々薬師を輩出してきた一族の血を引いていますの。触れただけで病や不調の原因を見抜いてくださるのですわ。ハーブを中心とした療法も心得てますの」
マリネは男爵家の三女ですが、後妻のお母様が薬師一族の出身なのです。
「アベル様にはえん麦のポリッジがいいでしょうね。負担のない程度に肉や魚を入れて……薬効のハーブやスパイスも」
マリネは早速何やら考えてますわね。目がキラキラ輝いてます。こういう時はいきいきして別人みたいですわ。
「マリネ、あなたがアベル様にお食事を作って差し上げなさい」
「え、ええっ!?」
「アベル様、マリネはわたくしが誰よりも信頼する侍女です。毎朝だけでよろしいので、彼女の派遣をお許しいただけますか?」
バーセンハイム公国の宮殿からアクスフィアの王宮までは距離がある。けれど、ゲートという瞬間移動できる門があり、許可されれば一瞬で移動可能なのです。