命令教室
しかし正志がバッドを振り回すのでそれどころではない。
バッドは床や壁に当たり、ガンガンと大きな音を立てる。
その度にあちこちにキズが増えていく。

このままじゃ大きな怪我をするかもしれない。


「お願いだからやめて! 話を聞いて!」


バッドが振り上げられたとき、私は自ら正志の前に飛び出していた。
こうでもしないとやめてくれない。
だから、咄嗟にとってしまった行動だった。
正志の視線が私を捉えて、驚いたように目を丸くする。

けれどバッドの勢いは止まらず、そのまま振り下ろされる。
ギュッときつく目を閉じたとき、私の右耳をバッドがかすめる音がした。
ヒュッと風を切ってバッドが床に叩きつけられる。

そして沈黙が訪れた。
そっと目を開けると正志は力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
未来と充もさすがに喧嘩を止めている。


「喧嘩してる場合じゃないよ。ホワイトボードを見て」


早鐘を打つ心臓をどうにか沈めて、私は言ったのだった。
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