夜空へ虹の架け橋を

 取引先にも行かず会社にも戻らずに家に帰ると、バスタブにお湯を溜めた。

 なにか覚悟を決めたあとは、身も心もさっぱりしたくなるのだろうか。

 シャワーを浴びて、バスキューブをお湯に溶かし、つま先からバスタブに浸かる。

 甘いオレンジの香りを肺に取り込みながら、時間を忘れてお湯に浸かった。

 まるでこれは儀式だ。明日のための、勇気を手に入れるセレモニー。

 お風呂から出ると三通の手紙を書いた。

 手紙を書き終えスマホの電源を入れると、溜まっていた通知が一気に流れ込む。

 それらを確認もせずに削除して、七色ダムへのルートを調べ始めた。

 七色ダムから一番近い市街地までは、電車を乗り継いで五時間くらい。

 そこからは一日に数本、七色ダム付近の村へと向かうバスが出ていると、ネットの情報に載っていた。

 移動手段がある程度定まったことに安堵し、時計を見ると午前零時を過ぎている。

 もうこんな時間か。明日は早く起きなくちゃ。

 ベッドの灯りを消して瞼を閉じる。

 今日一日のことを考えると目が冴えてしまう気がしたが、逆に疲れてしまっていたのか、わたしはすぐに夢の中へ堕ちた。

 疲れたり体調を崩すと、決まって見る夢がある。

 七年前のあの事故の夢だ。

 この日も同じように、わたしは夢の中で時を遡っていた……。

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