その涙が、やさしい雨に変わるまで

2*配属先は受付部門

「今日から配属されることになった松田さんです。今更だけど、松田さん、自己紹介をお願いします」

 退職願を提出するものの一時預かりとなって三日後、三琴は受付嬢の制服を身に纏っていた。
 受付部門で三琴のことを知らない社員はいない。副社長の来客を取り次ぐ際には、必ず前室の三琴を通す必要があるからだ。「今更だけど」とは、こういう意味である。

 総務部長に促されて、部署朝礼の場で挨拶をする。受付部署への勤務は来週からということであったが、後任人事が速やかに決まり、予定を前倒しして三琴は今、ここに立っている。
 その三琴の後任だが、瑞樹の第二秘書だった、本多(ほんた)である。秘書課長は三琴と一緒に副社長室前室で働いていた男性第二秘書を第一秘書へ昇格させた。そんな後任人事であれば、業務引継ぎにそう時間はかからなかった。

「秘書課から異動になりました。松田です。こちらには新人研修以来の配属となります。当時とはシステムが変更しているかと思います、どうぞご指導をよろしくお願いいたします」
「と、いうことだ。まったくの新人というわけではないけど、念のために、高崎(たかさき)さん、一週間、松田さんをお願いします」

 三琴のお世話係として指名されたのは、二つ年下の受付嬢の高崎(たかさき)彩也子(さやこ)
 入社年度こそ二年違いで三琴の後輩になるが、業務上、行き来が多くあったせいで、彩也子と三琴は勝手知ったる仲である。ふたりの密な繋がりを知っているがゆえの、総務部長の指名であった。
 本日はもう特に伝達事項はなく、三琴の人事異動の開示だけで朝礼が終わる。総務部長の「解散」のひと声で、業務がスタートした。
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