その涙が、やさしい雨に変わるまで
そう、三琴はわかっている。そんなの建前で、問題を先送りしているということを。
最終的には喧嘩別れになってしまったが、瑞樹としばらくぶりに会話できて嬉しかった。それだけでなく今までの働きを労ってもらえた。
菱刈からも「松田さんはずっと副社長の補佐を貫くものだと思ってましたけど」といわれて、これも嬉しかった。
そうそれらは、すべて瑞樹のそばにいる三琴の姿だ。
誇らしく感じることはすべて瑞樹と一緒にいたとき――もうこれは、瑞樹との過去を忘れることができないということである。
転職活動に本腰が入らないのも、同じ理由。
本心は瑞樹の隣で秘書としてずっとそばにいたい。一時的に受付部門に配属されたときは決意を覆されて悔しいものがあったが、完全に辞職とならなかったことにほっともしていた。まだ同じ社員であることに、心は未練たらしくしがみついていているのだ。
そうなのだ、三琴は辞職願を出したけど、心の整理が未だについていないのである。
そして今、脩也からも三琴の行き先を問われる。これにも中途半端な回答しかできない。
脩也は、瑞樹と三琴のことを、瑞樹の記憶喪失のことも知っている人物だ。水面下の出来事を知る彼には、ごまかしがきかないような気がしてならない。
運良く、タクシー乗り場は空いていた。先にひとりの利用客が待っているだけで、すぐに乗れる。
とっさにそんな確認をしてしまうあたり、本能が早く脩也から離れなければならないと訴えているようだ。
「あー、よかったよかった。すぐに乗れるな」
のんきな脩也の声が耳に入る。これだけきけば、三琴の本心がバレてはいないと思われた。
「本日はありがとうございました。ここまでで大丈夫です。では、おやすみなさい」
前回と違ってきちんと挨拶をして、やってきたばかりのタクシーに三琴が乗り込もうとしたときだった。
「松田ちゃんも、おやすみなさい。あとで資料を送るね」
「え、資料?」
不意を突かれて、思わず三琴は振り返る。そこには自信にあふれる不敵な瞳の脩也がいた。
「うん。松田ちゃんさえよければ、俺らと一緒にシカゴで活動しない? プロジェクトの概要をみてほしい、是非とも転職先の候補のひとつとして検討して」
脩也の口調はいつもの軽いもの。だがそこには、菱刈がみせたのと同じ熱い気持ちが含まれていた。
最終的には喧嘩別れになってしまったが、瑞樹としばらくぶりに会話できて嬉しかった。それだけでなく今までの働きを労ってもらえた。
菱刈からも「松田さんはずっと副社長の補佐を貫くものだと思ってましたけど」といわれて、これも嬉しかった。
そうそれらは、すべて瑞樹のそばにいる三琴の姿だ。
誇らしく感じることはすべて瑞樹と一緒にいたとき――もうこれは、瑞樹との過去を忘れることができないということである。
転職活動に本腰が入らないのも、同じ理由。
本心は瑞樹の隣で秘書としてずっとそばにいたい。一時的に受付部門に配属されたときは決意を覆されて悔しいものがあったが、完全に辞職とならなかったことにほっともしていた。まだ同じ社員であることに、心は未練たらしくしがみついていているのだ。
そうなのだ、三琴は辞職願を出したけど、心の整理が未だについていないのである。
そして今、脩也からも三琴の行き先を問われる。これにも中途半端な回答しかできない。
脩也は、瑞樹と三琴のことを、瑞樹の記憶喪失のことも知っている人物だ。水面下の出来事を知る彼には、ごまかしがきかないような気がしてならない。
運良く、タクシー乗り場は空いていた。先にひとりの利用客が待っているだけで、すぐに乗れる。
とっさにそんな確認をしてしまうあたり、本能が早く脩也から離れなければならないと訴えているようだ。
「あー、よかったよかった。すぐに乗れるな」
のんきな脩也の声が耳に入る。これだけきけば、三琴の本心がバレてはいないと思われた。
「本日はありがとうございました。ここまでで大丈夫です。では、おやすみなさい」
前回と違ってきちんと挨拶をして、やってきたばかりのタクシーに三琴が乗り込もうとしたときだった。
「松田ちゃんも、おやすみなさい。あとで資料を送るね」
「え、資料?」
不意を突かれて、思わず三琴は振り返る。そこには自信にあふれる不敵な瞳の脩也がいた。
「うん。松田ちゃんさえよければ、俺らと一緒にシカゴで活動しない? プロジェクトの概要をみてほしい、是非とも転職先の候補のひとつとして検討して」
脩也の口調はいつもの軽いもの。だがそこには、菱刈がみせたのと同じ熱い気持ちが含まれていた。