その涙が、やさしい雨に変わるまで
 本日の三琴の業務は再研修(・・・)である。グランドフロアの受付カウンターに着席せず、彩也子とともに裏方業務についた。

 社屋には契約清掃業者が入っているが、全てを網羅しているわけではない。この社では、グランドフロアの観葉植物の管理は受付嬢の業務であった。
 今朝はあと一時間後に契約フローリストがやってきて、傷んだ観葉植物の引取りをしてもらう予定である。その下準備を今から三琴と彩也子が行うのだ。地味な受付嬢の業務である。

 これは営業時間前であれば表立ってみえる業務でないから、外部の目を必要以上に気にしなくてもいい。傷んだ観葉植物を回収しながら、同時並行でその他の業務説明ももらう。
 でもこれ、コソコソ話をするにはもってこいの、再研修になっていた。

「年度区切りでなく年度はじめすぐに異動なんて、松田さん、何やらかしたのよ?」

 傷んだ花を取り除きながら、彩也子が尋ねる。予想どおり、さっそく彩也子の追及がはじまった。年下といえども遠慮のない彩也子だった。

 とはいっても、その彼女の声は興味津々というものではなく、どちらかというと心配の色が濃い。
 中途半端な時期に、降格とも思われる異動であれば、誰だって三琴が業務で失態したと思うだろう。

 これも絶対に訊かれること、そうわかっていたからこの三日の間に考えてあったセリフを三琴は口にした。

「口外厳禁ってわけじゃないけれど、一応教えておくわね。私、退職するの」
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