その涙が、やさしい雨に変わるまで
(相変わらず素敵よね、ここのホール)
(これは、大人キュートって感じかな?)
(もう二度とくることはないから、よくみておこう)

 グランドフロアで待つといわれて、三琴はそちらへ向かう。
 このデルリーンはとても広い。グランドフロアといっても、ざっと大きくテーマ分けされたエリアが三つある。具体的にどのエリアでと指定されていないが、三琴はなんとなく、あのあたり(・・・・・)に瑞樹がいると予想していた。

 あのあたりとは、エントランス入ってすぐのロビースペースではない。そこは待ち合わせに一番よく使われるが、極秘交際しているふたりには都合が悪かった。
 シュッシュと軽くフラットシューズの靴底と絨毯がこすれる音がする。
 迷うことなく三琴はロビースペースを通り過ぎ、廻り階段のあるピアノホールを横切って、最奥のテラスエリアへ足を運ぶ。奥へ向かうにつれて、人影がまばらとなっていった。

 テラスエリアからは、ホテルのプライベートガーデンへ降りることができる。季節に合わせて楽しめるように複数の庭が造園されていて、紫陽花の庭も、それのひとつ。
 そう、はじめて瑞樹と上司部下の枠を外してふたりで過ごした庭が、そこにある。
 そんな思い出深いテラスエリアへ到着すれば、三琴の予想どおり、瑞樹がひとりカウチソファに座って待っていた。

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