その涙が、やさしい雨に変わるまで
瑞樹は、ぼんやりとプライベートガーデンを眺めていた。
朝の薄明りの中、整然とカウチソファが並んでいる。誰もいないテラスエリアはひどく厳かで、宗教画に似た静粛な空間となっていた。そこに瑞樹だけがいた。
声をかける前に、三琴はしっかりとその姿を瞳に収める。クールで、責任感が強くて、でも心の奥底では社員のことを誰よりも気にかけている瑞樹は、三琴の尊敬する副社長だ。
好きになった人は、本当に知的で素敵な人だと思う。こんな人と恋愛ができて、よかったとも思う。
「おはようございます。お待たせして申し訳ありません」
少し離れた位置から挨拶をする。この距離は、副社長と秘書のもの。恋人として過ごした場所で、三琴は意識して真逆の態度をとる。
「おはよう。今日はありがとう。退職日も近いし、もうこないんじゃないかと思っていた」
三琴を見つけて瑞樹がふっと笑みを浮かべる。「待ちぼうけに甘んじる」の言葉が無効となったことに安堵したかのよう。
「実は、少し迷いました。けれど、きちんとしておいたほうがいいかと思いまして」
「では、知らないことを教えてもらえるのかな?」
「はい。その前に……まだ雨も落ちていませんし、せっかくのお庭ですから、散策してもよろしいでしょうか?」
こう告げれば、瑞樹は意表を突かれた顔をした。限られた時間であればすぐに本題に入ると、普通は思うだろう。
しかし、三琴は本題を先送りする。
自分が主導権を握ると決めたので、三琴からアクションを呈示する。瑞樹の回答をもらう前に、三琴の足はプライベートガーデンへ向かっていた。
朝の薄明りの中、整然とカウチソファが並んでいる。誰もいないテラスエリアはひどく厳かで、宗教画に似た静粛な空間となっていた。そこに瑞樹だけがいた。
声をかける前に、三琴はしっかりとその姿を瞳に収める。クールで、責任感が強くて、でも心の奥底では社員のことを誰よりも気にかけている瑞樹は、三琴の尊敬する副社長だ。
好きになった人は、本当に知的で素敵な人だと思う。こんな人と恋愛ができて、よかったとも思う。
「おはようございます。お待たせして申し訳ありません」
少し離れた位置から挨拶をする。この距離は、副社長と秘書のもの。恋人として過ごした場所で、三琴は意識して真逆の態度をとる。
「おはよう。今日はありがとう。退職日も近いし、もうこないんじゃないかと思っていた」
三琴を見つけて瑞樹がふっと笑みを浮かべる。「待ちぼうけに甘んじる」の言葉が無効となったことに安堵したかのよう。
「実は、少し迷いました。けれど、きちんとしておいたほうがいいかと思いまして」
「では、知らないことを教えてもらえるのかな?」
「はい。その前に……まだ雨も落ちていませんし、せっかくのお庭ですから、散策してもよろしいでしょうか?」
こう告げれば、瑞樹は意表を突かれた顔をした。限られた時間であればすぐに本題に入ると、普通は思うだろう。
しかし、三琴は本題を先送りする。
自分が主導権を握ると決めたので、三琴からアクションを呈示する。瑞樹の回答をもらう前に、三琴の足はプライベートガーデンへ向かっていた。