その涙が、やさしい雨に変わるまで
  †††


「さてと、全員が揃ったところで、いきますか」
と、脩也。指差す先は、航空会社のチェックインカウンターである。

「じゃあ春奈、あまり羽目を外さないように」
 裕介が春奈へ忠告する。よくみれば、春奈は大きなスーツケースを持っているのに、裕介は何もなし。とても軽装だ。両手の空いた裕介はこれから海外へ向かうにしては軽すぎる。

(あれ?)
(夫婦揃ってシカゴ、じゃないの?)

「ヘヘ、まっかせなさい! 松田さんもいるから、大丈夫よ」
 夫の心配をよそに、妻は余裕綽々である。
 そんな春奈を横にして、裕介は三琴に深々と頭を下げて懇願した。
「松田さん、この度はありがとうございました。こんな妻ですが、どうぞ春奈をよろしくお願いいたします」

 おかしな流れだなと思ったら、なんと渡米するのは、脩也、春奈、三琴の三人だけであった。
 春奈の夫、裕介は日本での仕事があるので、シカゴプロジェクトに参加はしていても日本で待機となっていた。
 通常は日本で活動するが合間をみてシカゴへ顔を出すと裕介はいう。東野池夫妻にとっては、シカゴプロジェクト開始が国際遠距離結婚生活の始まりとなるのである。
 
「ふふん、座席は松田さんの隣を指定したんだから。十二時間のフライト、女同士で楽しもうね」
と、夫とは違い完全に旅行気分の春奈。航空券は三人並んで取れなくて、脩也が少し離れたシートに座るとのことだった。
「女性陣は華やかでいいなぁ~」
と、脩也のほうにも裕介のような深刻さはない。

(並びじゃないということは、チケットを取ったのがかなり直前だったのね)

 修也の帰国目的がシカゴスタッフ探しであることを思い出せば、アメリカ帰りの日付は未定。それゆえにチケットはひとまず仮予約で押さえていたのだろう。海外で活躍する修也の荷物は、社で再会のときのデイバックひとつ。彼は旅慣れていた。

「天気もまずまずだし、揺れることはないだろう。じゃあ東野池さん、あとはよろしくお願いします」
 修也が裕介へ挨拶し、荷物を預けると三人はセキュリティチェックを抜けたのだった。
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