その涙が、やさしい雨に変わるまで
三琴のちぐはぐする気分に棹差すように、瑞樹が茶々を入れる。
「い、いいじゃないですか! だって、海外なんて高校の修学旅行以来だもの。気になるものは、持っておきたいんです!」
やや赤面しながら、三琴は反論する。
パスポートこそ社の命令で有効期限切れしないようにしていたが、入社してからの三琴は一度も海外へいくことはなかったのである。
「出国審査ひとつとっても十年前からいろいろシステムが変わっていて、もうややこくって……。書類不備でフライトに乗れなかったらと考えると……気分は副社長の仰るとおり、はじめての海外旅行なんです!」
恥を忍んで二度目の初心者だと、三琴は主張する。
「まぁ、僕のほうも、いつも三琴には社で留守番させていたしな」
むきになって弁解する三琴の様子をほほえましくみて、瑞樹は穏やかに返す。
「はい、そう……でしたね。あの、いつも……海外のチョコレートのお土産は嬉しかったです」
急に肯定されて、そう三琴は答えたのだった。
搭乗開始まで、あと二十分ほど。なぜか、脩也と春奈は戻ってこない。
搭乗口ではさらに乗客が集まってきていて、周辺のにぎやかさが増していく。日本語以外の外国語が飛び交えば、ここが日本の中であっても日本でない国際空港なのだと実感する。
ふたりで並んでベンチソファに座っていると、かすかに瑞樹の体温を感じ取ることができる。近すぎず遠すぎずの程よい距離感が愛おしい。社の肩書が外れた今は、ふたりを阻む壁の高さが低くなったような気がした。人間関係がリセットされたとでもいおうか。
「しかし、参ったよ。あの『知らないこと』は、本当に記憶から抜けていたものだったから。あのあと菱刈さんに問い合わせたら、さんざん叱られた。危うく優秀な社員に逃げられるところだった、ありがとう」
真摯な瞳を三琴に向けて、瑞樹はそう菱刈の件に感謝した。
「い、いいじゃないですか! だって、海外なんて高校の修学旅行以来だもの。気になるものは、持っておきたいんです!」
やや赤面しながら、三琴は反論する。
パスポートこそ社の命令で有効期限切れしないようにしていたが、入社してからの三琴は一度も海外へいくことはなかったのである。
「出国審査ひとつとっても十年前からいろいろシステムが変わっていて、もうややこくって……。書類不備でフライトに乗れなかったらと考えると……気分は副社長の仰るとおり、はじめての海外旅行なんです!」
恥を忍んで二度目の初心者だと、三琴は主張する。
「まぁ、僕のほうも、いつも三琴には社で留守番させていたしな」
むきになって弁解する三琴の様子をほほえましくみて、瑞樹は穏やかに返す。
「はい、そう……でしたね。あの、いつも……海外のチョコレートのお土産は嬉しかったです」
急に肯定されて、そう三琴は答えたのだった。
搭乗開始まで、あと二十分ほど。なぜか、脩也と春奈は戻ってこない。
搭乗口ではさらに乗客が集まってきていて、周辺のにぎやかさが増していく。日本語以外の外国語が飛び交えば、ここが日本の中であっても日本でない国際空港なのだと実感する。
ふたりで並んでベンチソファに座っていると、かすかに瑞樹の体温を感じ取ることができる。近すぎず遠すぎずの程よい距離感が愛おしい。社の肩書が外れた今は、ふたりを阻む壁の高さが低くなったような気がした。人間関係がリセットされたとでもいおうか。
「しかし、参ったよ。あの『知らないこと』は、本当に記憶から抜けていたものだったから。あのあと菱刈さんに問い合わせたら、さんざん叱られた。危うく優秀な社員に逃げられるところだった、ありがとう」
真摯な瞳を三琴に向けて、瑞樹はそう菱刈の件に感謝した。