その涙が、やさしい雨に変わるまで


 到着ロビーでは、瑞樹のような出迎え客がたくさんいた。時期は九月の中旬であれば大学生は夏休みで、帰国者は家族連れよりもそれらしき若者のほうが多い。学生グループが次々と税関を抜けてくるが、女性一人というのはなかなかいない。
 三琴は大丈夫だと思いながらも、瑞樹は少々不安になってくる。
 英語に問題はないが、三琴はどうもお人好しなところがある。日本に不案内な外国人に捕まって、道案内などしていそうだ。そんなことを瑞樹は想像する。

 待てども待てども、三琴は現れない。
 瑞樹の想像にこんな拍車がかかる。親切にしてくれた日本人女性にお礼がしたいなどどいって、男性外国人に引き止められる三琴の姿が。
 想像はさらにエスカレートする。その外国人から今だけでなくこのあともずっと一緒に行動しないかと誘われる三琴の姿が。
 そんなシーンが容易に浮かんでくれば、瑞樹はひとり青くなっていた。

 過保護な瑞樹の想像を、ある振動が断ち切った。私用のスマートフォンにメッセージが入ったのだった。
 メッセージの送り主は、美沙希であった。

――無事、メイクアップアーティスト専門学校へ入学できました。年齢的に厳しいところがありますが、自分が希望したことだから頑張ります。黒澤さんからは理解だけでなく資金援助もいただくことができ、本当に感謝しています。

 理解とは、婚約解消理由を性格の不一致にしたことである。美沙希は一度受けたものを断るからと相当の代償を覚悟していたが、瑞樹は責任を一方的なものにせず、ふたり同罪にした。
 資金援助とは、名目は婚約期間中の美沙希の機会費用なのだが、実質は彼女が再スタートを切るための準備金である。メイクアップアーティスト専門学校というのは、のちのちのための保険だそうだ。

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