その涙が、やさしい雨に変わるまで
 スカスカのマンションの空間をみて、三琴は思う。いろいろな意味で瑞樹は再構築しているのだと。
 前のマンションには記憶を失ってからの瑞樹の生活が、それは美沙希との思い出になるのだが、なにかと詰まっている。本当はそこにお付き合いしていたときの三琴の思い出もあるのだが、記憶が戻らない瑞樹にとっては「ないもの」になっていた。

 美沙希とのことにけじめ(・・・)をつけているんだなと、三琴は思う。けじめもあるかもしれないが、三琴のことを考えて美沙希の影を消してくれたのかもしれない。

 リビングで三琴は荷物を解く。その間に、瑞樹も別室でいろいろ準備をする。
 フライト中は時差ボケを回避するために、三琴は脩也のアドバイスに従って極力寝ないでいた。

 その脩也のアドバイスはこうだ。
 夕方にシカゴを出発して翌日の夜に日本を着くから、機内で眠ると日本で眠れなくなる。だから絶対に機内で寝てはいけないと。逆にずっと起きていれば二十時間以上覚醒していることになるから、そうしたらもう日本到着と同時にバタンキューだと。
 瑞樹が風呂などの準備をしてくれているが、脩也のアドバイスを忠実に守った三琴はもう眠くて眠くてたまらない。

 早くベッドに、入りたい。瑞樹が考えているのとは、別の意味で。

 そう、横になれるところに着くまでは意識をしっかりしておかねばと三琴は頑張っていた。だがここは、もうその安心して横になれるところだ。瞬きするたびに、三琴の瞼が重くなっていく。
 リビングにもどってきた瑞樹は、広げたスーツケースの隣で睡魔に負けた三琴を見つけたのだった。

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