その涙が、やさしい雨に変わるまで
夢の中で、ふわりと三琴の体が浮いた。ふわりと浮いて、ゆらゆらと揺れて、とすんと着地する。着地した先は、柔らかくて肌触りがいい。柔らかくとも適度な硬さがあれば、体を横たえるのにとても快適だ。
さらに全身が温かいものに包み込まれる。髪を撫でられて、肩を擦られる。優しいその撫で方に、慈しみの断片を見つけてしまう。
髪を撫でた手はとても大きかった。その大きな手が次に三琴の頬を撫でて、その指先が耳たぶを愛おしく擽る。耳たぶをこんなふうに優しく弄られると、なんて気持ちいいのだろう。
夢の中で、三琴は微笑んでしまう。
「三琴、もう寝てしまった?」
声が、三琴がよく知っているあの声が、そう訊いてきた。
あ、そうだと、三琴は目を覚ましたのだった。
寝室のベッドの上で着衣のまま、しっかりとタオルケットに包まれている三琴がいた。
「起きた?」
三琴の横に寝そべって、三琴の髪を梳いている瑞樹がいる。部屋はフットライトだけがついていて、薄暗い。しとしとと夜の雨の音が、静かに立ち込めている。
「うん。ごめんなさい。うたた寝しちゃった」
暗闇の中で、三琴は謝った。うっかりとはいえ、恋人同士の再会を台無しにしてしまった。
「フライトが長くて疲れていることだし、もうこのまま寝る?」
恋人は、とても優しい。この瑞樹の労いが、とても嬉しい。
「うん。でも、瑞樹さんはいいの?」
そういうわけにはいかないだろう、普通は、と三琴は思う。
「そういわれると……」
愛しい人から挑発されて、品行方正に振る舞える恋人など滅多にいない。