その涙が、やさしい雨に変わるまで
新商品発売は、社の株価へダイレクトに影響を与えるもの。
三琴自身が直接製品開発に携わっていなくとも、社の極秘情報を共有していることに間違いない。
(株取引している面々にすれば、新作情報なんて格好の判断材料だった!)
(でも……副社長の秘書をしていれば、自社商品から無関係でいることは無理だよ~)
問題なく退職できる理由を用意したつもりであったが、副社長の追及のほうが三琴の計算の上をいっていた。三琴はとっさの回答が思いつかない。
そのがっかりした気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。三琴の視線だって、瑞樹の顔でなく瑞樹が腕を置いているデスク上面へ、いつの間にか泳いでいた。
三琴がぐうの音も出ないのも認めて、瑞樹は主導権を取ったとばかりにこう切り返してきた。
「松田さん、もう一度確認します。辞職理由は業務過多ということですので、その内容を詳しくきかせてもらってもよろしいでしょうか?」
「…………」
セリフは業務軽減相談に応じるような感じだが、瑞樹の口調はそうではない。
少しきつめの副社長の諮問に、素直に「実は……」といえない。なぜなら、本当の辞職理由は「能力の限界」ではないからだ。
実際、現在従事している秘書業務は、独身の三琴にとって業務過多なものではない。五年も瑞樹の補佐を行っていれば慣れたもので、三琴の仕事ぶりはベテランの域である。能力不足とはいいがたい。
(どう答えようか?)
三琴自身が直接製品開発に携わっていなくとも、社の極秘情報を共有していることに間違いない。
(株取引している面々にすれば、新作情報なんて格好の判断材料だった!)
(でも……副社長の秘書をしていれば、自社商品から無関係でいることは無理だよ~)
問題なく退職できる理由を用意したつもりであったが、副社長の追及のほうが三琴の計算の上をいっていた。三琴はとっさの回答が思いつかない。
そのがっかりした気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。三琴の視線だって、瑞樹の顔でなく瑞樹が腕を置いているデスク上面へ、いつの間にか泳いでいた。
三琴がぐうの音も出ないのも認めて、瑞樹は主導権を取ったとばかりにこう切り返してきた。
「松田さん、もう一度確認します。辞職理由は業務過多ということですので、その内容を詳しくきかせてもらってもよろしいでしょうか?」
「…………」
セリフは業務軽減相談に応じるような感じだが、瑞樹の口調はそうではない。
少しきつめの副社長の諮問に、素直に「実は……」といえない。なぜなら、本当の辞職理由は「能力の限界」ではないからだ。
実際、現在従事している秘書業務は、独身の三琴にとって業務過多なものではない。五年も瑞樹の補佐を行っていれば慣れたもので、三琴の仕事ぶりはベテランの域である。能力不足とはいいがたい。
(どう答えようか?)