その涙が、やさしい雨に変わるまで
――こんな兄さんだけど、商売に関してはさっぱりでね、はっきりいって向いていないと思う。人には向き不向きがあるからね。何でもできる兄さんにできないことがあるとわかって、そこは少しほっとした、っていうのが弟の本音だ。
――弟はこんな感じだけど、親はやっぱり兄さんにも事業を継承してもらって、もっと社を大きくしたいと思っている。従業員のことを考えれば、ひとりよりもふたり後継者がいるほうが何かと安心だし。兄さんの待遇を海外赴任にしてあるのは、いつかは兄さんが家に戻ってくることを心の底で期待しての措置なんじゃないのかなと、弟は思うわけだ。
見方によっては重い家庭事情なような気がする。だが、朗らかに瑞樹はいってみせる。
大事をさしもそこまで大事でないようにいう瑞樹もすごいが、兄の進路に何ら不満を持たないのも素晴らしい兄弟愛だなとも思う。
――そういう事情だから、兄さんとコンタクトを取るのが難しくて、困っていたんだ。副社長昇格が決まってから、さらに忙しくもなったし。
――それで、三琴。三琴が兄さんとの連絡係になってくれると助かる。三琴の秘書用のスマホナンバーを兄さんに伝えてあるので、一般業務と同じように管理して。兄さんからコンタクトがあれば、いかにも通常の会議のように兄さんと会う予定を組んでほしい。
――もちろん社が優先で、調整が無理であれば次回に。そこのあたりはきちんとしておかないと社員に示しがつかないからね、我慢するよ。
脩也は日本にいないだけでなく、滞在先のニューヨークでもじっとしていないそうだ。彼は、被写体を追ってアメリカ国内を飛び回っているらしい。
兄の写真家活動事情がそんな感じであれば、瑞樹だって副社長業務で忙しい。
兄弟ふたりが会うとすれば、脩也の日本帰国のときが一番いい。コンタクトを取るのは、常に動いている脩也から定点にいる瑞樹へ入れるほうが確実だ。
兄弟はそんな結論に達して、三琴が指名されたのだった。
――弟はこんな感じだけど、親はやっぱり兄さんにも事業を継承してもらって、もっと社を大きくしたいと思っている。従業員のことを考えれば、ひとりよりもふたり後継者がいるほうが何かと安心だし。兄さんの待遇を海外赴任にしてあるのは、いつかは兄さんが家に戻ってくることを心の底で期待しての措置なんじゃないのかなと、弟は思うわけだ。
見方によっては重い家庭事情なような気がする。だが、朗らかに瑞樹はいってみせる。
大事をさしもそこまで大事でないようにいう瑞樹もすごいが、兄の進路に何ら不満を持たないのも素晴らしい兄弟愛だなとも思う。
――そういう事情だから、兄さんとコンタクトを取るのが難しくて、困っていたんだ。副社長昇格が決まってから、さらに忙しくもなったし。
――それで、三琴。三琴が兄さんとの連絡係になってくれると助かる。三琴の秘書用のスマホナンバーを兄さんに伝えてあるので、一般業務と同じように管理して。兄さんからコンタクトがあれば、いかにも通常の会議のように兄さんと会う予定を組んでほしい。
――もちろん社が優先で、調整が無理であれば次回に。そこのあたりはきちんとしておかないと社員に示しがつかないからね、我慢するよ。
脩也は日本にいないだけでなく、滞在先のニューヨークでもじっとしていないそうだ。彼は、被写体を追ってアメリカ国内を飛び回っているらしい。
兄の写真家活動事情がそんな感じであれば、瑞樹だって副社長業務で忙しい。
兄弟ふたりが会うとすれば、脩也の日本帰国のときが一番いい。コンタクトを取るのは、常に動いている脩也から定点にいる瑞樹へ入れるほうが確実だ。
兄弟はそんな結論に達して、三琴が指名されたのだった。