その涙が、やさしい雨に変わるまで

6*瑞樹、葛藤する

 副社長専用車に乗って、瑞樹は帰社する。
 今日の取引は、取引自体はウィンーウィンで問題のないものであったが、そのせいで必要以上に先方がご機嫌であった。うまく進んでいる案件に水を差すわけにはいかず、取引相手の与太話に付き合う。
 気がつけば、会食は予定よりもずいぶん長いものとなっていた。

 本当は直帰したかったが、株主総会が近づいている。IR情報はとっくに出来上がっていて、今は質疑応答対策をしているところだ。株主総会が一年間の幹部の運営結果報告であれば、次期会社運営に理解と協力を得る場でもある。間抜けな姿を株主に晒すわけにはいかない。
 
 関連資料は機密に当たるから、出先に持ち出すことはできない。それゆえに会食から一度帰社することにしたのだが、こんなに遅くになるのなら、先に本多を帰しておけばよかったかなと瑞樹は思う。

 自分も目的の資料さえ取れば、退社する。階下に社用車を待たせたまま、瑞樹は高層階の副社長室へ向かった。

 予想どおり、副社長室前室に明かりがついている。本多がきちんと留守番をしていた。

「お疲れ様です。ちょっと遅かったので、何かあったのかと心配になりました」
「うーん。まぁ、爺様の相手をしていたら、こうなってしまった。すまない」
「そうだったのですか。事故とかにあったわけではなかったので、よかったです」

 予定が延びたことを、そういうふうに本多は心配していた。
 
「それはそうと、また花をいただいてきたのですか?」

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