その涙が、やさしい雨に変わるまで
バタバタとした電話が終わって、やれやれと思う。今晩は取引相手といい、突如現れた脩也といい、騒がしい夜となっていた。
ホッとしたのもつかの間、手のひらのスマートフォンがうごめいた。ショートメッセージが届いたのだった。
――そうそう、結婚するんだってな、おめでとう。
――また、そのあたりの話をじっくりしようぜ。
――今月末まで日本にいる。飯を食いにいこう。今度こそ、おやすみ。
電話の会話がせっかちであれば、ショートメッセージも同じように一方的である。
脩也とは副社長になる前に会ったきりだから、約三年ぶりのコンタクトになる。それ以後、瑞樹からコンタクトを取っていないので、結婚のことはきっと三琴からきいたのだと推測する。
そのあたりの話をじっくりしようぜ。――そうはいっても、婚約者の美沙希とは知り合ってまだ一年と少しである。のろけ話のひとつでもきかせたいところだが、残念ながらそんなものはあまりない。
(でも、付き合いは短いとしても、出会いは劇的だった、と思うぞ)
(兄さんがどんな話を期待しているかは知らないが……今の感じでは、反対ではなさそうだ)
(先に弟が結婚するとなると、どうかなと思っていたけど……)
普段疎遠な兄弟であれば、酒を酌み交わして結婚について話を盛り上げたいところだろう。だが、親と喧嘩している兄であれば、表立って会いにいくのは難しい。
そして、兄の元に自分の結婚のことが伝わっていないところをみると、やはり両親は式に兄を呼ばないつもりなのだろう。海外現地が忙しいとかいって。
一本の電話で、完全に瑞樹は調子が狂ってしまった。総会資料を確認しようと思ったのに、目はもう文字をなぞっているだけである。
こんな集中力では、後日見直しが必須となる。資料確認は諦めて、いま一度先の電話の内容を、瑞樹は反芻した。
ホッとしたのもつかの間、手のひらのスマートフォンがうごめいた。ショートメッセージが届いたのだった。
――そうそう、結婚するんだってな、おめでとう。
――また、そのあたりの話をじっくりしようぜ。
――今月末まで日本にいる。飯を食いにいこう。今度こそ、おやすみ。
電話の会話がせっかちであれば、ショートメッセージも同じように一方的である。
脩也とは副社長になる前に会ったきりだから、約三年ぶりのコンタクトになる。それ以後、瑞樹からコンタクトを取っていないので、結婚のことはきっと三琴からきいたのだと推測する。
そのあたりの話をじっくりしようぜ。――そうはいっても、婚約者の美沙希とは知り合ってまだ一年と少しである。のろけ話のひとつでもきかせたいところだが、残念ながらそんなものはあまりない。
(でも、付き合いは短いとしても、出会いは劇的だった、と思うぞ)
(兄さんがどんな話を期待しているかは知らないが……今の感じでは、反対ではなさそうだ)
(先に弟が結婚するとなると、どうかなと思っていたけど……)
普段疎遠な兄弟であれば、酒を酌み交わして結婚について話を盛り上げたいところだろう。だが、親と喧嘩している兄であれば、表立って会いにいくのは難しい。
そして、兄の元に自分の結婚のことが伝わっていないところをみると、やはり両親は式に兄を呼ばないつもりなのだろう。海外現地が忙しいとかいって。
一本の電話で、完全に瑞樹は調子が狂ってしまった。総会資料を確認しようと思ったのに、目はもう文字をなぞっているだけである。
こんな集中力では、後日見直しが必須となる。資料確認は諦めて、いま一度先の電話の内容を、瑞樹は反芻した。