その涙が、やさしい雨に変わるまで
 三琴がこんな別の退職ルートを画策していることには気がつかないまま、瑞樹は瑞樹で真剣に自分の秘書の異動先を検討する。
 思案する瑞樹の表情をみて、三琴は思う。

(こんな悩める顔の瑞樹さんとも、もうおしまいなんだな~)
 
 退職を認める、認めないの攻防戦を繰り広げている最中なのに、のんきな三琴の感想である。

(ひとまず部署異動させると決めたんだから、もうその先は人事部にでも任せればいいのに)

 三琴の次の配属先を決めること――本来、それは副社長の業務ではない。だが、瑞樹はそうしなかった。
 天井を仰いだり、額を抑えたりしてさんざん瑞樹は考える。そして思考がまとまったのか、彼は秘書課長と総務部長を呼び出した。

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