その涙が、やさしい雨に変わるまで

7*瑞樹vs三琴、第一ラウンド

 一日アルバイトを終えて、三琴に日常が戻ってきた。
 あの撮影会のメンバーとはそのとき限りのご縁なので、特にSNSアカウントの交換はしない。
 そして三琴は交通費と称した報酬(バイト代)、千円札が一枚入った封筒を受け取った。用意した雨具、実際には使わずに済んだのだが、の費用を考えると赤字である。
 まぁそこは、自分ひとりではいくことのできないバラ園へ連れていってもらえたので、相殺するとしよう。

 無事撮影会を終えて出発地点まで戻ると、日はまだ高く夕方前。これは日帰り旅行客のラッシュに巻き込まれないようにという、早い時刻の撤収であった。
 まだまだ買い物などを楽しめそうな時刻であったが、これからフォトグラファーの面々は現像にかかる。三琴はこれでおしまいとなるが、メンバーは依然勉強会真っ最中なのだ。

 ひとり先にワゴン車を降りた三琴へ、朗らかに脩也がいう。

――松田ちゃん、後日このメンバーで『飯』を食いにいくから、決まったら連絡するね。
――え? ごはん、ですか?
――そうそう。正確には、現像したフォトを持ち寄っての『討論会』。せっかく集まるから、楽しく討論しようってこと!

 脩也のお誘いは、すでに三琴の参加が前提となっていた。脩也の背後でドライバーもニコニコして、ふたりのやり取りをきいている。
 三琴は入園してすぐにフレグランス・ガーデンで春奈と親しく話すこととなった。他のメンバーも気質が春奈とよく似ていて、昼のお弁当の時間では和やかに歓談できた。どうやらこの脩也の自主勉メンバー、似た者同士の集まりらしい。三琴もすんなりと馴染めたのである。それゆえに、『後日の討論会』へのご招待なのだが……

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