その涙が、やさしい雨に変わるまで
そして、予定外のことが起こる。
予定外のことは、起こるときはいつだって不意打ちで、かつ重なるものだ。
三琴と彩也子が並んで受付カウンターで待機すれば、二時間前に目撃したヨーロッパ事業部のメンバーが再び現れた。上層階でのミーティングが終了したのだ。
ヨーロッパ事業部のメンバーは、ここから先は個別行動をとっていた。待機させてあった社用車に乗り込む幹部もいれば、別案件でまたエレベーターホールへ戻っていく社員もいる。もちろん今日はこれでオフになるメンバーもいて、彼らは受付嬢に向かってタクシーを要請した。
「すみません、三台、ハリアーをお願いします」
代表して受付カウンターにやってきたのは、菱刈であった。一番若いヨーロッパ事業部メンバーであれば、必然的に年配メンバーのパシリとなっていた。
「わかりました。他にも何か、要望はありますか?」
「セダンでなくて、できればミニバンを。足を延ばしたいので。無理ならそれに準ずる広い車をお願いします」
菱刈によると、ミーティングこそは大丈夫であったが、それが終わって緊張が緩むとヨーロッパ事業部メンバーに時差ボケが襲ってきたとのことだった。
菱刈の目の前で三琴が要望に合うハリアーを業者にお願いすれば、すぐにそれは見つかった。
「タイミングよく、すべてミニバンで確保できました」
そう三琴が告げると、菱刈は満足の顔となった。
そして周りを見渡す。三琴に業務が入りそうにないのを確認して、
「ありがとうございました。ところで、いま少し、時間は大丈夫でしょうか?」
と、菱刈は三琴との会話を切り出したのだった。
「はい、何でしょうか? この日本本部ビルに、何か不都合なことがありましたか?」
真剣な顔で菱刈がいうものだから、三琴は受付の対応や受付嬢が管理しているグランドフロアに不備があったのかと、どきりとした。
「いえ、そうではなくて、松田さんは以前、黒澤副社長の秘書をされていませんでしたか?」