その涙が、やさしい雨に変わるまで
急遽呼び出されたふたりの管理職員と三琴の前で、瑞樹は異動命令を下した。
「松田さんが辞職を希望しています。社としては極めて残念なことですが、本人の意思を尊重したいと思います。そこで……」
副社長から三琴の退職希望のことをきかされて、課長と部長のふたりが目を丸くする。
そして副社長の前にもかかわらず、ふたり揃って隣に並ぶ三琴をみた。え、噓でしょ? という顔で。
軽く咳払いして、瑞樹は注目を自分に戻す。
あわててふたりは、驚きの表情を消した。
「松田さんについては、一般社員と同じ手続きはできません。彼女は社外秘関与社員ですから。そういうことで退職まで三ヶ月の猶予期間を設けます。その間、松田さんは受付部門配属にしてください。彼女なら取引先の情報に精通しているから、研修なしで問題なく務めることができるでしょう」
人事部長ははじめこそは三琴の異動に驚いたが、退職を視野に入れての措置だとわかれば、あっさりと認めた。
三琴も、この「退職まで三ヶ月の猶予期間」に納得できた。
三ヶ月、副社長執務室から離れていれば、三琴の知る新作発表会やその内容などインサイダー情報の案件はすべて終わっている。副社長秘書から外れてから以降の企業秘密のことを、知ることはない。
有体にいえば、インサイダーから完全に「白」となって退職しろということだった。
次に振られたのは、秘書課長である。
「松田さんの後任人事ですが、これは個人的なわがままになってしまうのですが、会長から次は男性秘書をお願いするようにいわれています。松田さんの異動までに引継ぎができるよう、早急に男性の後任を決めてください」
副社長は半年後に結婚する。これは社の幹部だけが知っている事実である。
瑞樹の父親である会長から「男性秘書を」という意味は、新婦に向けた配慮であることが容易に想像できた。
「松田さんが辞職を希望しています。社としては極めて残念なことですが、本人の意思を尊重したいと思います。そこで……」
副社長から三琴の退職希望のことをきかされて、課長と部長のふたりが目を丸くする。
そして副社長の前にもかかわらず、ふたり揃って隣に並ぶ三琴をみた。え、噓でしょ? という顔で。
軽く咳払いして、瑞樹は注目を自分に戻す。
あわててふたりは、驚きの表情を消した。
「松田さんについては、一般社員と同じ手続きはできません。彼女は社外秘関与社員ですから。そういうことで退職まで三ヶ月の猶予期間を設けます。その間、松田さんは受付部門配属にしてください。彼女なら取引先の情報に精通しているから、研修なしで問題なく務めることができるでしょう」
人事部長ははじめこそは三琴の異動に驚いたが、退職を視野に入れての措置だとわかれば、あっさりと認めた。
三琴も、この「退職まで三ヶ月の猶予期間」に納得できた。
三ヶ月、副社長執務室から離れていれば、三琴の知る新作発表会やその内容などインサイダー情報の案件はすべて終わっている。副社長秘書から外れてから以降の企業秘密のことを、知ることはない。
有体にいえば、インサイダーから完全に「白」となって退職しろということだった。
次に振られたのは、秘書課長である。
「松田さんの後任人事ですが、これは個人的なわがままになってしまうのですが、会長から次は男性秘書をお願いするようにいわれています。松田さんの異動までに引継ぎができるよう、早急に男性の後任を決めてください」
副社長は半年後に結婚する。これは社の幹部だけが知っている事実である。
瑞樹の父親である会長から「男性秘書を」という意味は、新婦に向けた配慮であることが容易に想像できた。