その涙が、やさしい雨に変わるまで
「うん、わたしも、サッパリ」
「ホントに?」
「二年前の業務だっていっていたから、やっぱり本多さんでは対応不可だったみたいね」
二年前というと、本多はまだ秘書部にはいなかった。瑞樹もまだ事故前で、記憶を失っていなかった。菱刈はヨーロッパ事業部配属で日本にいなかった。
「えー、それって、お誘いの口実じゃないの?」
「違うと思うよ。だって……」
「だって?」
秘書部から外れた三琴のことを、彩也子は保護者のようにガードしている。
ガードされている三琴のほうは、そんなことまったく認識していない。皆が皆『受付嬢、三琴』に親切にしてくれるいい人ばかりだわと、のん気そのものである。
なぜもこう、彩也子は三琴のガードを固めたがるのか?
もちろん、急な人事異動でやってきた三琴が無防備で心配というものもあるが、受付嬢それぞれに気になる男性社員がいるからである。でもその男性社員らの大部分は、秘書部からやってきた三琴へ向ける視線が熱い。
本命がいる受付嬢にすれば、この状況たまったものではない。三琴と親しい彩也子が、代表して牽制をかけているのである。
三琴自身は、あと二ヶ月もすれば退社する。その二ヶ月の間、本命らの視界に三琴が入らないようにしておけば、元のグランドフロアの均衡に戻る。下手に波風立てて三琴のことで騒ぎになれば、本命から不興を買う。そう、それは受付嬢全員の首を絞めるもの。
という、グランドフロア受付カウンター周辺では、独自の恋愛パワーバランスが働いているのである。もちろん三琴は、これも知らない。
知らないがゆえに三琴は、彩也子に向って申し訳なさそうにこう告げた。
「ホントに?」
「二年前の業務だっていっていたから、やっぱり本多さんでは対応不可だったみたいね」
二年前というと、本多はまだ秘書部にはいなかった。瑞樹もまだ事故前で、記憶を失っていなかった。菱刈はヨーロッパ事業部配属で日本にいなかった。
「えー、それって、お誘いの口実じゃないの?」
「違うと思うよ。だって……」
「だって?」
秘書部から外れた三琴のことを、彩也子は保護者のようにガードしている。
ガードされている三琴のほうは、そんなことまったく認識していない。皆が皆『受付嬢、三琴』に親切にしてくれるいい人ばかりだわと、のん気そのものである。
なぜもこう、彩也子は三琴のガードを固めたがるのか?
もちろん、急な人事異動でやってきた三琴が無防備で心配というものもあるが、受付嬢それぞれに気になる男性社員がいるからである。でもその男性社員らの大部分は、秘書部からやってきた三琴へ向ける視線が熱い。
本命がいる受付嬢にすれば、この状況たまったものではない。三琴と親しい彩也子が、代表して牽制をかけているのである。
三琴自身は、あと二ヶ月もすれば退社する。その二ヶ月の間、本命らの視界に三琴が入らないようにしておけば、元のグランドフロアの均衡に戻る。下手に波風立てて三琴のことで騒ぎになれば、本命から不興を買う。そう、それは受付嬢全員の首を絞めるもの。
という、グランドフロア受付カウンター周辺では、独自の恋愛パワーバランスが働いているのである。もちろん三琴は、これも知らない。
知らないがゆえに三琴は、彩也子に向って申し訳なさそうにこう告げた。