その涙が、やさしい雨に変わるまで
敢えて三琴は、曖昧な語尾にする。遠い記憶を無理矢理引き出してきたふうを装う。
瑞樹の失った記憶は今から二年前の一年分。三琴との交際が始まって、転落事故に遭うまでの一年分だ。
今は、記憶を失った事故から一年少し経っている。そう、瑞樹の記憶は今から丸々二年分が曖昧なまま。
脩也のことを、この二年分よりも前のことにしてしまえば記憶の混濁と相まって、ややこしくなる。こういう状況であれば、瑞樹も三琴もお互いが自信をもって断言できない。そんなはったりを三琴はかましたのだった。
「久しぶりに帰国してちょうど時間が取れたからと仰られていました。副社長の仕事の邪魔にならないように、まずは秘書のほうへお電話されたのです。しかし三年前の番号では通がらなくて、直接いくほうが早いということで来社されました」
これはほぼ真実だ。連絡先のことはこれで充分だと思われた。
「アルバイトの件ですが、来社された脩也さんと対応したのは私でした。その最中に脩也さんに外部連絡が入りました。急ぎの募集だったらしく、たまたまそばにいた私に白羽の矢が立っただけです」
アルバイトの依頼は少し違うところがあるが、偶然が偶然を呼んでこうなったということする。実際、脩也が現れたのは偶然なのだから、本当に他意が入るものではなかったのだとわかってほしい。
「それは、本当にそれだけ?」
懐疑的な瑞樹の声。うまくできた偶然だと思いながらも、瑞樹は完全に否定できない。
嘘か誠か、どちらのニュアンスも含む彼の声色から、三琴はもうひと押しだと確信できた。瑞樹の仕事の仕方を知っていれば、あとひとつ、辻褄の合うものがあれば彼は納得する。三琴はさらにこう付け足した。
瑞樹の失った記憶は今から二年前の一年分。三琴との交際が始まって、転落事故に遭うまでの一年分だ。
今は、記憶を失った事故から一年少し経っている。そう、瑞樹の記憶は今から丸々二年分が曖昧なまま。
脩也のことを、この二年分よりも前のことにしてしまえば記憶の混濁と相まって、ややこしくなる。こういう状況であれば、瑞樹も三琴もお互いが自信をもって断言できない。そんなはったりを三琴はかましたのだった。
「久しぶりに帰国してちょうど時間が取れたからと仰られていました。副社長の仕事の邪魔にならないように、まずは秘書のほうへお電話されたのです。しかし三年前の番号では通がらなくて、直接いくほうが早いということで来社されました」
これはほぼ真実だ。連絡先のことはこれで充分だと思われた。
「アルバイトの件ですが、来社された脩也さんと対応したのは私でした。その最中に脩也さんに外部連絡が入りました。急ぎの募集だったらしく、たまたまそばにいた私に白羽の矢が立っただけです」
アルバイトの依頼は少し違うところがあるが、偶然が偶然を呼んでこうなったということする。実際、脩也が現れたのは偶然なのだから、本当に他意が入るものではなかったのだとわかってほしい。
「それは、本当にそれだけ?」
懐疑的な瑞樹の声。うまくできた偶然だと思いながらも、瑞樹は完全に否定できない。
嘘か誠か、どちらのニュアンスも含む彼の声色から、三琴はもうひと押しだと確信できた。瑞樹の仕事の仕方を知っていれば、あとひとつ、辻褄の合うものがあれば彼は納得する。三琴はさらにこう付け足した。