その涙が、やさしい雨に変わるまで
瑞樹に背中を向けたまま、自分でもびっくりするくらい冷徹な声で三琴は反論した。
「瑞樹さん、あなた、何も知らないくせに!」
「あなた、これから美沙希さんと結婚するのでしょ!」
「辞めていく私のことなんて、もうどうだっていいじゃないですか!」
最後のひと言はあえて振り返り、瑞樹と向かい合って投げつけるようにいう。自分から絶縁を言い渡している気分でもあった。
三琴の反撃に、瑞樹は言葉を失う。こんな逆切れの三琴を、瑞樹は今までみたことがない。
社内のパワーバランスから部下が口答えすることはない。そんな傲慢もあれば、どんな弁解がきても論破できるつもりでいた。無意識のうちに三琴よりも自分が優位であると信じ切っていた瑞樹にとって、これは想定外であった。
今度は瑞樹のほうが目を見開いて三琴を見下ろし、絶句していた。
「ご注意をありがとうございます。以後、気をつけておきます。では、失礼します」
瑞樹が我に返る前に、さっさと三琴は副社長室前室を退室したのだった。
***
怒りに任せて通路を歩いていけば、通常ならヒールが高く鳴り響いていただろう。でもここは役員クラスの執務室の入るフロアで、毛足の長い絨毯敷きである。不機嫌な三琴の足音はすべてこの絨毯が吸い取っていく。
冷静を失った瑞樹が追いかけてこないかと、怒りとは裏腹に恐れも感じながら、とにかく早く三琴はこのフロアから消えたかった。
エレベーターホールまでたどり着けば、運よくエレベーターが停まっていた。他の人影を確認などせず、さっさと扉を閉めて、三琴はロッカールームのある二階のボタンを押したのだった。
「瑞樹さん、あなた、何も知らないくせに!」
「あなた、これから美沙希さんと結婚するのでしょ!」
「辞めていく私のことなんて、もうどうだっていいじゃないですか!」
最後のひと言はあえて振り返り、瑞樹と向かい合って投げつけるようにいう。自分から絶縁を言い渡している気分でもあった。
三琴の反撃に、瑞樹は言葉を失う。こんな逆切れの三琴を、瑞樹は今までみたことがない。
社内のパワーバランスから部下が口答えすることはない。そんな傲慢もあれば、どんな弁解がきても論破できるつもりでいた。無意識のうちに三琴よりも自分が優位であると信じ切っていた瑞樹にとって、これは想定外であった。
今度は瑞樹のほうが目を見開いて三琴を見下ろし、絶句していた。
「ご注意をありがとうございます。以後、気をつけておきます。では、失礼します」
瑞樹が我に返る前に、さっさと三琴は副社長室前室を退室したのだった。
***
怒りに任せて通路を歩いていけば、通常ならヒールが高く鳴り響いていただろう。でもここは役員クラスの執務室の入るフロアで、毛足の長い絨毯敷きである。不機嫌な三琴の足音はすべてこの絨毯が吸い取っていく。
冷静を失った瑞樹が追いかけてこないかと、怒りとは裏腹に恐れも感じながら、とにかく早く三琴はこのフロアから消えたかった。
エレベーターホールまでたどり着けば、運よくエレベーターが停まっていた。他の人影を確認などせず、さっさと扉を閉めて、三琴はロッカールームのある二階のボタンを押したのだった。