その涙が、やさしい雨に変わるまで
「ああ、きいているよ。いや、部下を高く評価してもらえて、ちょっと感動していた」
――そうか。ひとつ確認したいけど、松田ちゃんのパスポートのことだけど、持っている? できれば、ビザ付きのがいいんだけど。あと有効期限。わからないか?
確かに旅行でなく就労となれば、ビザは必要だ。
もう三琴の転職が確定したかのように、ポンポンと脩也は瑞樹に確認を入れていく。
三琴はまだ我が社の社員である。自分の秘書でなく他部門に配属となっているとしても。脩也の進め方のひとつひとつに瑞樹の干渉を許さないような響きがあって、瑞樹は自分の体の一部が引きはがされるような感じがした。
「現地派遣の可能性が絶対にないとも限らないから、パスポートは取得しているはずだ。ただし、ビザまでは申請していない。あくまでも一時渡航で対応させるつもりでいた。そこまで秘書に重責を押し付けるつもりはないから」
――そうか。秘書なのに「ビザ取れよ」といわれたら、何をさせられるんだと怖くなって逃げてしまうよな~。わかった、松田ちゃんは「ビザなし」ということで。
電話先の脩也の背後が騒がしい。滞在先のラグジュアリーホテルの部屋でなく、外部会場から電話をしているようだ。もしかしたらそこには、三琴が今後一緒になって働くメンバーがいるのかもしれない。
脩也は突拍子もなく行動に移る。思いついたら、じっとしていられない質だ。両親の理解が得られず、家を出ていったときもそうだった。新規事業のローンチ会議中に三琴のことが出てきて、忘れないうちにと即座に電話してきたのだと瑞樹は気がついた。
――じゃあ、彼女にオファーを出してもいいか?
これは意外な脩也の言葉だった。
「え? まだだったのか?」
驚きが、そのまま瑞樹は口から出た。
脩也は、口調だけでなくフットワークも軽い。でも普段のフットワークの軽さとは対照的に、この件では非常に慎重な姿勢をみせる。
――そうだよ。まだお前のところの社員だし。松田ちゃんみたいな人材、逃したくない。できる限り外堀……いやいや、待遇を整えてお迎えしたいから、ね。
――そうか。ひとつ確認したいけど、松田ちゃんのパスポートのことだけど、持っている? できれば、ビザ付きのがいいんだけど。あと有効期限。わからないか?
確かに旅行でなく就労となれば、ビザは必要だ。
もう三琴の転職が確定したかのように、ポンポンと脩也は瑞樹に確認を入れていく。
三琴はまだ我が社の社員である。自分の秘書でなく他部門に配属となっているとしても。脩也の進め方のひとつひとつに瑞樹の干渉を許さないような響きがあって、瑞樹は自分の体の一部が引きはがされるような感じがした。
「現地派遣の可能性が絶対にないとも限らないから、パスポートは取得しているはずだ。ただし、ビザまでは申請していない。あくまでも一時渡航で対応させるつもりでいた。そこまで秘書に重責を押し付けるつもりはないから」
――そうか。秘書なのに「ビザ取れよ」といわれたら、何をさせられるんだと怖くなって逃げてしまうよな~。わかった、松田ちゃんは「ビザなし」ということで。
電話先の脩也の背後が騒がしい。滞在先のラグジュアリーホテルの部屋でなく、外部会場から電話をしているようだ。もしかしたらそこには、三琴が今後一緒になって働くメンバーがいるのかもしれない。
脩也は突拍子もなく行動に移る。思いついたら、じっとしていられない質だ。両親の理解が得られず、家を出ていったときもそうだった。新規事業のローンチ会議中に三琴のことが出てきて、忘れないうちにと即座に電話してきたのだと瑞樹は気がついた。
――じゃあ、彼女にオファーを出してもいいか?
これは意外な脩也の言葉だった。
「え? まだだったのか?」
驚きが、そのまま瑞樹は口から出た。
脩也は、口調だけでなくフットワークも軽い。でも普段のフットワークの軽さとは対照的に、この件では非常に慎重な姿勢をみせる。
――そうだよ。まだお前のところの社員だし。松田ちゃんみたいな人材、逃したくない。できる限り外堀……いやいや、待遇を整えてお迎えしたいから、ね。