ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

美少女転校生あらわる

  小学5年生の春、ほたるのクラスに転校生がやってきた。

 新学期のクラス替えでさなえちゃんとも、ももちゃんとも離れてしまったほたるは、ショックで呆然としながらぼうっと席に座っていた。そんなほたるの耳に『転校生』が来ると風の噂が届いて、ちょっとウキウキする。転校生って、くじ引きとかガチャガチャに似たワクワクがある。

 ガラガラ~と、教室の扉が開いて、担任の先生と転校生が現れた。
(うわ、綺麗な子~) 
 黒板に、白いチョークで先生が大きく名前を書く。

 橘 紗良。たちばな、さら。
 名前までビューティフル。

 都会からやってきた転校生は、都会的な美少女だった。
「よろしくお願いします」
 切れ長の瞳がさっとクラスを見つめ、賢そうな唇から凛とした声が発せられた。
 長く艶やかな黒髪がお辞儀と一緒にさらさらとこぼれ落ちる。彼女の仕草にクラスの男子がぽっくり口を開けて魅入っていた。
 橘さんはひょろりと手足が長くて、胸のあたりがほんの少し膨らんでいた。中学生と見間違えるほど、全てが成熟した女子だった。

「やだぁ、男子ったら。鼻血流しそうな顔しちゃって」
 前の席の桜井さんが「やらしいと思わない?」と、後ろの席のほたるを振り返り「きゃあ!」と声を上げた。

「?」
 どうしたんだろうと思った瞬間、鉄の味がした。

「先生! 深山ほたるさんが鼻血出してます!」

 桜井さんは、ぴしっと真っすぐ手を挙げてクラス中に響く声で言ったのだった。
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