ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

勇気を出して

「課外活動のグループ決めやるぞー。グループは二人でも十人でもよし、始め!」
 ガンガラガラっとみんなが一斉に立ち上がって、次々とグループを作っていく。

「ほたるちゃん、こっちこっち」
 窓際に陣取った林檎ちゃんたちがほたるに手招きしている。橘さんは椅子に座ったまま、いつものようにじっとしていた。

「なんだなんだ、橘さんはまた一人ぼっちかぁ?」
 堺先生の悪気ないけどデリカシーもない冗談に、桜井さんたちがふふっと笑ってひそひそ話し込んでいる。橘さんは顔色一つ変えず椅子に座ったまま動かなかった。

 ほたるは林檎ちゃんたちと橘さんを交互に見比べる。このまま林檎ちゃんたちのところへ行けば、安泰……。心臓が高速で脈打っていて、痛い。……怖い。

 もし橘さんに手を差し伸べたら、桜井さんは怒るだろうな。考えてみれば、あたし、橘さんがどんな子かも知らない。もし、橘さんと性格が合わなかったらどうするの?

「ほたるちゃん、どうしたの?」
 杏ちゃんが心配そうにほたるの元へ駆けてくる。

 ももちゃんは「あたしはさなえっちみたいに強くないから、出る杭になったらすぐに打たれちゃうの。だからうさぎみたいに弱いものどうし肩を寄せ合ってひっそり生きるんだ」と喋っていた。それも間違っていないと思う。

『できるよ、ほたるなら』
 篤の目の下のえくぼを思い出し、ぎゅっとほたるは両手を握りしめた。

「ごめんね、杏ちゃん。やっぱりあたし」
「え?」
 ほたるは橘さんに向かって歩き出した。そのほたるを、桜井さんたちの視線が追いかけてくる。怖い。でも、もう決めたんだ。頑張れ、ほたる。
 後戻りできないよう、ほたるは大声で「橘さん」と呼びかけた。
 橘さんはスっと筆で線を引いたようなう美しい二重をほたるに向けた。

「一緒にグループ作ろ……って、二人だけど」
 自分の笑顔がこわばっている。橘さんは小さな口元を少し開いて、何度も瞬きをした。もしかして、橘さんはあたしのこと知らないのかもと不安が押し寄せ「あ、あたし、深山ほたるです」と慌てて自己紹介。

「え」と呟いた橘さんの口角がぐいんと持ち上がり、いきなりがしっと両手を掴まれた。

「え?」
「私深山さんと話してみたかったの」
 彼女は、何故かとんでもなく嬉しそうに、にっこり笑ったのだった。
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