ようこそ、むし屋へ ~深山ほたるの初恋物語編~
石橋を叩いて渡るVS三度目の正直の勝敗
春休みが開けて、ほたるは中学2年生になった。
今年は篤とさなえちゃんと同じ1組。ももちゃんと紗良は3組。クラス替えの張り紙を見た瞬間、嬉しさのあまり奇声をあげそうになって、どうにかとどめた。舞でも舞いたい気分だった。舞えないけど。
思い立ったが吉日な性格の紗良は、春休み前に篤に告白し、フラれた。
調理室で泣いている紗良を、ももちゃんが抱きしめている所を見た時、正直ホッとした。自分でも性格悪いな、と思うけれど。
ももちゃんは春休みのクッキング部で、それとなくほたると紗良を引き離してくれた。そういうところ、さすがももちゃんだと思う。
紗良はフラれ、ほたると篤は同じクラス。
これでしばらくは安泰!とか思っていたら「ほたるちゃん、私、諦めないから」と、クッキング部で紗良に笑顔で宣言されてしまった。
そして、一学期も終わる夏休み直前。紗良は再び篤に告白し、やっぱりフラれたと笑った。今度は落ち込むことなく吹っ切れたような感じだった。
これで諦めてくれたかも、とほたるは心底ホッとした。同時に、ほのかな希望が自分の胸に芽生える。
自分で言うのもなんだけど、クラスが一緒になって、最近篤と距離が近くなった。
「ほたるちゃんは篤君と仲良しで羨ましいなぁ」と、前の席の川崎さんにも言われたし。
(これって、つまりそういうことだよね)
追い風は、ほたるに吹いている、気がする。
告白するなら、今。かも。これ以上、石橋を叩き過ぎたら、逆に割れちゃうかもしれないし……。
(決めた!)
九月始めの、カラリと晴れた大安吉日の金曜日。部活終了後に告白決行。
仮に、本当に仮に、もしもフラれたとしても、土日で心の整理ができるだろう。そんでもって、つき合うことになったら、さっそく土日に初デート!
篤には、「篤のお母さんに、クッキング部で作ったお菓子をあげたいから」と説明して耕作さんの田んぼ付近で待ち合わせすることにした。
今日のクッキング部のメニューは『乙女のほろ苦モンブランシュー』。渋皮付きの栗で作ったまったり濃厚なマロンクリームのプチシュー。我ながら良くできた。
あぜ道に停めた自転車の上で、篤は初秋の夕空を仰いでいた。家に戻っていないのか、学生服のままだった。
まだ夏が抜けきれずにもんわりした暑さの中、第二ボタンまで開いたワイシャツをパタパタさせて空気を送っている。遠くでツクツクボウシも鳴いている。それでも秋ですよーと言うみたいに、アカトンボが緑の田んぼの上を覆いつくす。
「ごめん、待った?」と声をかけると、振り向いた篤が「全然」と笑った。
なんかこの掛け合いカップルみたいと、ドキドキする。心臓が高鳴り、早鐘を打ち始める。頬がぼっと熱い。耳が火傷しそう。
「それお菓子?」と、紙の手下げに目をやる篤。
「うん。シュークリーム」と、差し出す。
「サンキュー」
にかりと笑って自転車のカゴに手下げを乗せた篤が「んじゃ」と、ペダルに足をかけたので慌てて「あのさ」とほたるは呼び止めた。
「ん?」
「あ、えと」
篤と目が合って、ふいと逸らしてしまった。そのまま、何も言えず沈黙。
どうしよう、どうしよう。辛抱強く待っていた篤が「そういやさ」と口を開いた。
「オレ、橘さんと付き合うことにした」
「……え?」
今年は篤とさなえちゃんと同じ1組。ももちゃんと紗良は3組。クラス替えの張り紙を見た瞬間、嬉しさのあまり奇声をあげそうになって、どうにかとどめた。舞でも舞いたい気分だった。舞えないけど。
思い立ったが吉日な性格の紗良は、春休み前に篤に告白し、フラれた。
調理室で泣いている紗良を、ももちゃんが抱きしめている所を見た時、正直ホッとした。自分でも性格悪いな、と思うけれど。
ももちゃんは春休みのクッキング部で、それとなくほたると紗良を引き離してくれた。そういうところ、さすがももちゃんだと思う。
紗良はフラれ、ほたると篤は同じクラス。
これでしばらくは安泰!とか思っていたら「ほたるちゃん、私、諦めないから」と、クッキング部で紗良に笑顔で宣言されてしまった。
そして、一学期も終わる夏休み直前。紗良は再び篤に告白し、やっぱりフラれたと笑った。今度は落ち込むことなく吹っ切れたような感じだった。
これで諦めてくれたかも、とほたるは心底ホッとした。同時に、ほのかな希望が自分の胸に芽生える。
自分で言うのもなんだけど、クラスが一緒になって、最近篤と距離が近くなった。
「ほたるちゃんは篤君と仲良しで羨ましいなぁ」と、前の席の川崎さんにも言われたし。
(これって、つまりそういうことだよね)
追い風は、ほたるに吹いている、気がする。
告白するなら、今。かも。これ以上、石橋を叩き過ぎたら、逆に割れちゃうかもしれないし……。
(決めた!)
九月始めの、カラリと晴れた大安吉日の金曜日。部活終了後に告白決行。
仮に、本当に仮に、もしもフラれたとしても、土日で心の整理ができるだろう。そんでもって、つき合うことになったら、さっそく土日に初デート!
篤には、「篤のお母さんに、クッキング部で作ったお菓子をあげたいから」と説明して耕作さんの田んぼ付近で待ち合わせすることにした。
今日のクッキング部のメニューは『乙女のほろ苦モンブランシュー』。渋皮付きの栗で作ったまったり濃厚なマロンクリームのプチシュー。我ながら良くできた。
あぜ道に停めた自転車の上で、篤は初秋の夕空を仰いでいた。家に戻っていないのか、学生服のままだった。
まだ夏が抜けきれずにもんわりした暑さの中、第二ボタンまで開いたワイシャツをパタパタさせて空気を送っている。遠くでツクツクボウシも鳴いている。それでも秋ですよーと言うみたいに、アカトンボが緑の田んぼの上を覆いつくす。
「ごめん、待った?」と声をかけると、振り向いた篤が「全然」と笑った。
なんかこの掛け合いカップルみたいと、ドキドキする。心臓が高鳴り、早鐘を打ち始める。頬がぼっと熱い。耳が火傷しそう。
「それお菓子?」と、紙の手下げに目をやる篤。
「うん。シュークリーム」と、差し出す。
「サンキュー」
にかりと笑って自転車のカゴに手下げを乗せた篤が「んじゃ」と、ペダルに足をかけたので慌てて「あのさ」とほたるは呼び止めた。
「ん?」
「あ、えと」
篤と目が合って、ふいと逸らしてしまった。そのまま、何も言えず沈黙。
どうしよう、どうしよう。辛抱強く待っていた篤が「そういやさ」と口を開いた。
「オレ、橘さんと付き合うことにした」
「……え?」