ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

ビューティフル

 小さく絞ったボリュームで、おしゃれなジャズが流れていた。

 ジャズなんて上級者な音楽は馴染みがないはずなのに、何故か懐かしい気がする……

(あ、これ。夕方に蜻蛉町で流れる童謡だ!)

 確か『赤とんぼ』。ジャズにすると、カッコイイ。
 オレンジ色の照明を受けて大理石の床がぴかぴか光っている。ややクリーム色の壁には小さいけれど高価そうな絵画が飾られていた。

 お店の中央に、木の年輪をそのまま生かした大きな木製テーブルがでんと置かれている。木だった時は、さぞかし巨木だったに違いない。
 椅子も同じ材木で作られていて、背もたれにアンティークっぽい装飾が施してある。

「あ、虫」
 七色の虫はテーブルのど真ん中でちょこんとすましていた。

「虫、ですか?」
「あそこです。宝石みたいで綺麗だなって追いかけてたら、ここへ来てしまって」

 執事イケメンはほたるの指先の方へ姿勢よく近づいていき「これは」と、言ったきり無言になった。

「あの」
 結構な時間が流れた。

「あの、店員さ……」

「ビューティフル」

「へ?」
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