ようこそ、むし屋へ ~深山ほたるの初恋物語編~
蛹の夢語り
「あれ、オレ学ランじゃん」
篤がきょとんと言った。
「つか、ほたる、なんかちょっと……老けた?」
「はぁ?」
ははっ、冗談冗談、と笑った目元には、懐かしいえくぼが浮かぶ。とくんっ、とほたるの心臓は跳ね上がった。
目の前に、死んだはずの篤がいる。でも、どうして?
(これが、あたしの中にいたむしの羽化なんだ)
さっき向尸井がほたるから取り出した、あの赤黒い蛹のせいだ。
自分でもびっくりするほど、ほたるは確信を持っていた。
つまり、あのむしは、篤への恋心と後悔を栄養に成長していたのだ。
『この色からして、毒むしになるかどうか微妙な線ですね』と向尸井は言っていた。
羽化の時間はほんのひととき、とも。
その、ひとときのほたるの行動次第で、このむしの運命が決まるのだ。
(篤との思い出が毒むしになるのは嫌!)
毒むしにしないために何をするべきなのかは、わかっていた。
(すぐに伝えなきゃ)
ずっと言えなかった、シンプルな一言を。
「篤」
「ん?」
大きく息を吸い込んで、ほたるは篤の目を真っ直ぐに見つめた。
「あたしは、篤が好き」
篤がきょとんと言った。
「つか、ほたる、なんかちょっと……老けた?」
「はぁ?」
ははっ、冗談冗談、と笑った目元には、懐かしいえくぼが浮かぶ。とくんっ、とほたるの心臓は跳ね上がった。
目の前に、死んだはずの篤がいる。でも、どうして?
(これが、あたしの中にいたむしの羽化なんだ)
さっき向尸井がほたるから取り出した、あの赤黒い蛹のせいだ。
自分でもびっくりするほど、ほたるは確信を持っていた。
つまり、あのむしは、篤への恋心と後悔を栄養に成長していたのだ。
『この色からして、毒むしになるかどうか微妙な線ですね』と向尸井は言っていた。
羽化の時間はほんのひととき、とも。
その、ひとときのほたるの行動次第で、このむしの運命が決まるのだ。
(篤との思い出が毒むしになるのは嫌!)
毒むしにしないために何をするべきなのかは、わかっていた。
(すぐに伝えなきゃ)
ずっと言えなかった、シンプルな一言を。
「篤」
「ん?」
大きく息を吸い込んで、ほたるは篤の目を真っ直ぐに見つめた。
「あたしは、篤が好き」