ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

あの日の言葉の意味

 ほたるの訪問に、篤の母は息を切らして出てきて、ほたるをぎゅっと強く抱きしめた。

「ほたるちゃん! さっきね、本当に、ついさっきのことなんだけど、篤から電話があったのよ。おばさん、篤が生きてるのは知ってたけど、私たちに連絡をくれることはもうないと覚悟してたの。だからすごく嬉しくて。篤、オランダで元気にしてるって」
「ぐぇ。お、おばさん、篤が生きてるって知ってたの?」
「あらやだ、私ったらつい」と、ほたるから離れた篤の母は、にっこり笑った。

「所詮は中学生の嘘よ。大人が見破れないはずがないわ。ましてや我が子の生死に関わることなら、親はそれこそ血眼になって真相を突き止めるものよ」

(だからあの時)
 蛍石のネックレスをもらった日、篤の母は言っていた。

『おばさん、寂しくなったら空を眺めるようにしているの。空は篤とつながっているから』
 てっきり、死んだ篤が空から見守っている、という意味だと思っていたけれど。

「あの子が電話をする気になったのは、ほたるちゃんのおかげなの」
「あたし?」

「夢でほたるちゃんに説得されたんだって。家族も友達も、篤が生きているだけで嬉しいから連絡してって。とても勇気づけられたって言ってたわ」

 怒鳴ってしどろもどろになって、うまく伝えられないまま蛹は羽化し、篤は消えてしまったけれど、ちゃんとほたるの気持ちは届いていたのだ。
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