ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

ももちゃんの「秘めた想い」

「ごめん! 紗良っち、ほたるっち。実はあたしも、なんとなく篤君のこと知ってた」
『え? そうなの?』
 ほたると紗良の声が重なる。ももちゃんはいつになく真面目な顔で頷いてみせる。

「そうなの。だって……あたしは篤君に近いから」
「篤に近いって、どういうこと?」
 ももちゃんはぎゅっと目をつぶって叫んだ。

「あたし、女子が好き! 中学の時は紗良っちが好きだった!」

『え、ええ~~~~~?』

「あたしも自分がおかしいんじゃないかってずっと悩んでた。それに中学の頃はまだ治せるんじゃないかっても思ってた。男子と恋愛しなきゃって必死だった。あたしも、たぶん篤君も、恋愛対象が同性って以外は他と変わらないの。あたしは女子だし、篤君は男子。だから混乱するの。特にあの頃は思春期で、みんなにバレたら人生終わるって、死ぬしかないって、本気で怖かったよ。あたしはちんちくりんだったからまだマシだったけど、みんなからイケメン完璧男子ってイメージついてた篤君は、あたしなんか比じゃないくらいに怖かったと思う。今は思春期ほど苦しくないけど、でもあたしはこのことをみんなに話す気はなかったんだ。女の子が好きって言ったら、やっぱり前とは違う目であたしを見るよねって思うもん。だから、大地君が篤君にキスした話の時、大げさなリアクションしたの。本当は全然そう思ってないけど、でもノーマルなら絶対そうだろうなって」

「ももちゃん……」

「あたし、嫌な奴なの。紗良っちが篤君を好きになって喜んでたの。篤君は紗良っちを恋愛対象として見ないから、紗良っちを誰かに取られる心配がないって。あたし、恋愛相談に乗るフリして紗良っちを独り占めしてたの。ごめん、気持ち悪いよね。でも、今は他に恋人いるし、紗良っちのことそういう目で見てないから安心して……って言ってもやっぱり気持ち悪いよね。席変わってもいいよ。なんだったら帰るから。紗良っちごめんなさい。それとほたるっちも……ごめんなさい」

 思いっきり頭を下げたあと、でも、言えてよかった。と、ももちゃんは疲れ切ったように笑った。
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